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2017-01-18 15:40

文明と野蛮

倉西 雅子  政治学者
 本年2017年を、希望と不安が交差する複雑な心境で迎えた方も少なくなかったことでしょう。新たな時代の幕開けとなる予感がしつつ、不確実性に翻弄される年となる虞もあるからです。こうした不安定な時代にあっても、善き方向へと向かうためには、まずは、何を以って“善”とするのか、という価値判断を問う必要がありそうです。そこで、本日は、文明と野蛮という価値判断を伴う議論を見てみることとします。現在、文明の定義としてしばしば登場するのが“開かれた自由な社会”であり、主としてリベラルな人々によって信奉されてきた戦後の理想的な世界観です。

 しかしながら、人類史を振り返りますと、“開かれた自由な社会”を以って文明と定義した時代は現代史の一時期に過ぎません。歴史の大半において、文明なるものは、常に外部の野蛮な世界からの挑戦を受け続け、“開く”ことは野蛮からの侵略による文明の終焉を意味し、自由奔放という意味での“自由”もまた、秩序崩壊による野蛮への転落を招きかねなかったのです。

 それでは、何を以って文明と呼んでいたのかと申しますと、それはやはり、法の支配ではなかったかと思うのです。古代エジプトは、ファラオによる専制支配であると見なされがちですが、ファラオもまた、法に従って統治を行う義務がありました。また、メソポタミアが古代文明の一つと称されるのも、この地には、法典が存在していたからです。何れの法も神的権威を纏っており、統治者も、法を遵守する義務が課せられていました(この定義からすれば、中華文明が“文明”と言えるのは、周の時代まで…)。人々が集まって生活するに際しては、揉め事や争いは日常茶飯事となりますが、無秩序に陥ることなく様々な問題を解決するに当たって、暴力を許さずに、中立・公平な一般的な法によって解決する仕組みをいち早く造り上げたのが、古代文明の地であったということが出来ます。

 文明の本質を法の支配とする視点から今日の混乱を眺めてみますと、必ずしも、“大衆”とされる一般の人々による判断が、文明に対する野蛮の勝利を意味するとは言えないように思えます。今日のリベラルな文明の定義である、“開かれた自由な社会”を文字通りに実行しようとした結果、テロリストや密入国者が入り込むと共に、法の支配の伝統を持たない外国出身の人々も増加し、かつ、これらの人々が当然の権利の如くに“自由”を主張し始めたことに対する、既存の社会の側の危機感としても理解されるからです。このままでは、文明が崩壊してしまうという…。文明と野蛮に関する論争は、文明の定義の違いを明らかにしないことには、平行線を辿ることになりましょう。そして現実には、“開かれた自由な社会”を目指した政策が、法の支配に基づく文明を破壊するケースも後を絶たないのです。国際社会においても、暴力主義を肯定し、法の支配を否定する勢力が跋扈しておりますが、今一度、人類は、文明の本質に立ち返るべきではないかと思うのです。
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