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2007-03-13 04:30

中国の石油タンカーのメコン河航行に思う

小笠原高雪  山梨学院大学教授
 私は昨年6月17日の本欄に「CLMV諸国の足腰強化を!」と題する投稿を行なった。インドシナ/メコン地域の開発という問題は、その後も私の関心事項の一つであり続けている。この問題はASEANの内部格差の縮小、中国南部を含む大陸部地域の安定、アジア太平洋における戦略的バランスの確保など、さまざまな諸問題と深く関連しているからである。最近この問題を調べる過程において、私はいくつかの興味深い事実を知った。その一つは、予ねてメコン河の水運の増強を他の流域諸国に提唱してきた中国が、ついに小規模な石油タンカーをタイ北部のチエンライから雲南まで航行させることに成功したという事実である。これは端緒に過ぎない出来事であるが、今後の展開に対しては息の長い考察が必要であろう。

 それには大きく分けて二つの理由が存在している。第一に、もしメコン河が石油輸入路の一つとして機能するようになるならば、中国はエネルギー安全保障におけるマラッカ海峡への依存を減少させることができる。そして、そのことは、東アジアにおける米中間の紛争が激しくなった場合に、中国の立場をそれだけ有利にすると考えられる。第二に、石油に限らずメコン水運が増強されれば、東南アジアにおける中国の存在感は一層増大するであろう。日本政府やアジア開銀などはインドシナ/メコン地域における東西軸の強化に力を入れてきたが、南北軸をつうじて地域への浸透を図る中国に圧倒的な「地の利」が存することは否定できない。それはやがて日米の影響力を相対的に低下させるかもしれない。

 注目に価するのは、こうした複雑な性格をもつメコン水運の増強に他の流域諸国を同意させる過程において、中国が環境問題を巧みに利用してきた形跡がみられることである。すなわち、石油タンカーを含むメコン水運の増強は、他の流域諸国が嫌悪してきた上流域でのダム増設と取引された形跡がみられるのである。中国の「真意」を見究めるのはなかなかに難しい。以上は「中国脅威論」の再提起では必ずしもない。中国との交流は東南アジア諸国にも利益をもたらすものであるし、中国の将来には多くの不確定要因がある。東南アジアと中国南部の関係強化の意味を一つの観点のみで論ずることは適当ではない。確かなことは、直近の北東アジアだけでなく、東南アジアを含む広い視野がひきつづき求められるということである。
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