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2017-04-03 12:19

北朝鮮の核保有容認は危険

加藤 成一  元弁護士
 3月29日付けの本欄『議論百出』で、山崎正晴氏は、北朝鮮の核問題に関連して、米国が北朝鮮の核保有を容認し、国際社会に招き入れることを提案しておられる。その理由として、米国による北朝鮮への先制攻撃は、日本、韓国への報復攻撃を招くこと、核保有は国際法違反ではないこと、北朝鮮が米国に求めるのは、自国の体制存続と安全の保障のみであり領土的野心がないこと、などを挙げておられる。

 確かに、米国による核施設等への先制攻撃が、日本や韓国への報復攻撃を招く危険性は、完全には排除できないであろう。しかし、仮に、北朝鮮が核又は通常兵器による報復攻撃をすれば、米国と全面戦争となり、現時点では圧倒的に軍事力に勝る米国の核又は通常兵器による徹底的な反撃を受け、さらに核対核の核戦争になれば、多くの有識者が指摘する通り、北朝鮮自体が崩壊消滅する可能性が大きい。米国と全面戦争をすれば自滅することを、最も熟知しているのは、金正恩朝鮮労働党委員長自身であるに違いない。そうだとすれば、米国の核施設等への先制攻撃によって、北朝鮮が米国との全面戦争を覚悟して、直ちに日本や韓国に対して報復攻撃を加える確率は、現時点では必ずしも高くはないと考えられよう。ただし、北朝鮮が、今後飛躍的に核戦力を増強した場合は、それだけ報復攻撃の危険性が高まるであろう。その意味で、米国による核施設等への先制攻撃の時間的余裕は多くはないと言えよう。

 米国による北朝鮮の核保有容認は、北朝鮮にとって完全勝利であり、米国をはじめとする国際社会にとっては敗北を意味する。なぜなら、それによって、米国をはじめとする国際社会は、「核保有国」たる地位の承認と処遇を求める北朝鮮の要求を、100%受け入れたことになるからである。問題は、仮に米国が北朝鮮の核保有を容認しても、北朝鮮が公然又は秘密裡における核開発をやめる保証が全くないことである。これまでの北朝鮮の数々の背信行為を見れば、核保有を容認された北朝鮮は、むしろ「核大国」を目指して公然又は秘密裡に一層核開発を進め強化する公算が大きい。なぜなら、北朝鮮の核開発は、単に自国の体制の存続と安全の保障のためだけではなく、南北朝鮮の統一を見据えたものだからである。

 北朝鮮は、金日成主席以来一貫して『統一朝鮮』を目指してきた。同主席は1973年に『高麗連邦共和国構想』を韓国に提唱している。この構想は、「南北朝鮮の二つの体制をそのままにして連邦政府を樹立し、そのあとで単一国号で国連に加盟する」(金日成著『金日成著作集』33巻288頁1988年朝鮮・ピョンヤン外国文出版社刊)というものである。しかし、同主席は、「祖国解放戦争(朝鮮戦争)の時期に、南朝鮮の人民が敵の後方で暴動を起こし、人民軍の進撃に呼応して闘かったならば、我々は敵を徹底的に撃滅して祖国統一の問題をすでに解決していた」(『前掲書』18巻233頁)と述べている。すなわち、南北朝鮮の「武力統一」の方針を排除していないのであり、この方針は、金正日政権を経て、現在の金正恩政権にも当然引き継がれていると見るべきである。このように、米国による北朝鮮の核保有容認は、北朝鮮の核開発の一層の強化、朝鮮半島の武力統一、さらには日本に対する核恫喝をもたらす危険性がある。対話や経済制裁の限界が露呈され、急速に核・ミサイル開発を進め、今や深刻な脅威となっている北朝鮮に対しては、米国による核施設への先制攻撃を含む軍事的オプションも有力な選択肢の一つであるといえよう。日本としても、THAAD(高高度防衛ミサイル)の導入を含む「ミサイル防衛」の強化、巡航ミサイルなど「敵基地攻撃能力」の保有、核持ち込みを禁じた「非核三原則」の見直し、核避難場所の設置と訓練・広報活動などは、必要不可欠であろう。
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