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2007-03-26 09:43

韓国の多様な意見を見極めよう

西川  恵  ジャーナリスト
 歴史認識をめぐる議論になると、どうしても日本と韓国、日本と中国と、国単位で見がちになる。しかしここだけにとどまっていると、国の中に生まれている多様な意見を見逃し、硬直的な対立の構図でしかものごとを見れなくなってしまう。とくに民主主義社会の韓国では、意見の多様化が急速に進んでおり、そのへんを見極める視点を日本人としてはもっと持つべきではないかと思われる。

 こんなことを考えるのは、最近、面白い本を読んだからだ。ソウルの世宗大学日本文学科教授の朴裕河(パクユハ)さんの「和解のために」(平凡社)である。昨年9月、韓国で出版された著書の日本語訳で、日韓が抱える教科書、慰安婦、靖国、独島(竹島)の4つの問題を正面からとりあげた。朴さんは両国の立場と主張を、腑分けするように検証し、議論を進めている。日本人の私から見てもバランスのとれたもので、とくに新鮮な気持ちに打たれたのは、「和解の鍵は、結局のところ被害者側にある」と指摘した箇所だ。

 フランスの哲学者デリダを引きながら、朴さんは「謝罪を見届けてから赦すのではなく、赦しが先に立つのではないか」「不十分な点はありながらも、大枠においては、日本は韓国が謝罪を受け入れるに値する努力をしたのだと、私は考えている」と述べる。韓国内の議論でしばしば見受けられる白か黒かといった硬直的な言説はここにはない。なぜ赦しが先行すべきなのか。「被害をかざし続ける間に、被害者自身に目をつぶらせる」と朴さんは言う。他を攻撃する余り、被害者は自身の矛盾が見えなくなるというのだ。私は数年前、日韓フォーラムで朴さんと知り合った。韓国論壇のニューウェーブは楚々とした女性だが、韓国で彼女に向けられる非難の矢は想像に難くない。が、一方でこうした議論の深まりが韓国社会で進行していることはもっと知られていい。

 韓国と日本社会の文化史的な“時差”について、「韓国はモダニズム、日本はポストモダンにある」と指摘した人がいる。「歴史の発展」を信奉し、民族や独立、進歩といった価値に重きを置く韓国社会。一方、50年代から60年代にかけて、安保闘争などに象徴されるモダニズム時代を体験した日本は、「価値の多様化」「価値の平準化」が進行するポストモダンの時代の真っただ中にあるという。この分析については私も同感するところが大きいが、一方で、韓国はかつての日本より足早にポストモダンに差しかかりつつあるようにも感じている。朴さんは少数派意見とはいえ、それを発表できる環境にあることがそのことを明示している。韓国の世論を仔細に分類していく必要性は、今後ますます高まるだろう。そのためにも多くの人にこの本を読んでもらいたいと思う。
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