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2017-08-30 13:01

(連載1)北朝鮮問題の新たな分析枠組とは

倉西 雅子  政治学者
 今日、朝鮮半島情勢は緊迫の度を強め、米朝関係は一触即発の様相を呈しております。同盟国である日本国政府も、北朝鮮によるミサイル発射に備えた防衛体制に入っており、風雲急をつげるかの如きです。こうした中、今般の一連の流れに対しては、従来の国際政治における古典的な分析枠組や理論モデルでは十分な説明がし難いとする指摘があります。チキン・ゲーム論にしても、米朝間に核攻撃能力に著しい格差があっては、北朝鮮の露骨な挑発行為もアメリカの世論を先制攻撃容認に傾けたに過ぎず、北朝鮮を国際社会における合理的なアクターと見るには無理があるからです。

 現実とは複合的な要因が複雑に絡み合うものであり、かつ、表面に現れる現象は氷山の一角であることも少なくないのですが、物事を的確に理解するためには、整理された分析枠組による単純化も時には効果的です。それでは、どのような分析枠組、あるいは、理論的モデルがあれば、北朝鮮情勢を説明することができるのでしょうか。近現代の政治理論、並びに、国際政治理論の多くは近代啓蒙思想の流れにあり、高度な知性や理性を備えた人間による理性的・合理的秩序の創造と構築を目指す精神文化の中で培われてきました。国内レベルであれ、国際レベルであれ、今日に生きる人類の大半は、自由、民主主義、基本権の尊重、法の支配といった普遍的諸価値の制度化において、これらの恩恵に浴しています。しかしながら、そうであるからこそ、これらを巧妙に悪用することにより、自らを有利な立場に導こうとする国や勢力の出現は殆ど想定していません。

 ところが現実には、想定外の出来事が起きることで、努力の末に構築された秩序もまた、最大の危機に直面することとなります。前近代的な思考様式を残す諸国は、文明の成果としての普遍的諸価値の人類史的意義を理解せず、国際社会において構築されてきた制度を全世界の平和ではなく、自らの利益のために“悪用”しようとするからです。そして、この“悪用”国家に対しては、他の諸国は、対処に苦慮することとなります。暴力を封じ込めることこそ、秩序の構築の基本的な目的なのですから、その構築された秩序が内部から“悪用”されるケースに対しては、得てして無防備であることが多いからです。

 今般の北朝鮮の行動をみましても、北朝鮮は、自らの実力によってアメリカを威すほどの核・ミサイルを手にしたのではありません。NPT体制の成立によって、現核保有国を除いた他のすべての諸国の手が縛られているからこそ、北朝鮮の核保有の威力は絶大となるのです。銃刀法等の規制の下で周囲の人々が皆素手である場合、一人だけピストルを持って脅せば、誰も抵抗はできませんし、丸腰で立ち向かえば射殺されます。北朝鮮の行為は、いわば、暴力団と同様であり、法の網を掻い潜り、巧妙に周囲を騙しながら違法行為を働いているからこそ、暴力が自らの利益を最大化する武器となるのです。(つづく)
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