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2017-09-07 09:45

(連載2)領土拡張主義と特権グローバリズム

倉西 雅子  政治学者
 やがてチンギス・カーンが登場すると、遊牧民は主役として歴史の表舞台に駆け上がり、モンゴル帝国は、世界の大半を支配の頸木に繋ぐこととなります。13世紀もまた、ユーラシアの時代の始まりであったのです。そして、モンゴルが、一過性の占領を越えて世界帝国となり得た理由は、ユダヤ商人やイスラム商人(両者は区別されずに“回回”と呼ばれた…)等、外国人の知識や技術を受け入れ、活用したところにあります。世界史上初めて政府紙幣を発行し得たのも、おそらくこれらの外国人の入れ知恵によるものでしょう。

 遊牧民の国境感覚の欠如は、軍事面においては帝国の版図の拡大をもたらす一方で、本質的に広域性を志向する商業とも結びつき、帝国全域から莫大な税を徴収する体制を構築するのです(物品の取引に課された税は、今日の用語で表現すれば消費税に近い…)。モンゴル帝国は、農耕民といった一般の定住民に対しては過酷でしたが、特に元朝では、勅許を与えた商人や手工業者に対しては極めて寛容であり、その振興にも努めたのです。

 13世紀から大航海時代の到来によってヨーロッパに世界の中心が移る15世紀頃までを第一次ユーラシアの時代としますと、今日における第二次ユーラシアの時代のリスクも見えてきます。モンゴル的思考を受け継ぐ中ロの国境感覚の欠如は(因みにインドのムガール帝国の創始者であるバーブルもモンゴル系…)、軍事面では、伝統的領土拡張主義により今日の国際法に基礎を置く国民国家体系を脅かす一方で、経済のグローバリズムを利用する展開も予測できるからです。しかも、ユーラシア型の“グローバリズム”とは、“自由なグローバリズム”でもなく、その利権・利益分配型の支配体制からして、自らがビジネスを許可したグローバル企業のみに特権を与える“特権グローバリズム”となることでしょう(あるいは、中ロの背景には、モンゴル帝国と同様に、国際経済勢力が指南役として協力しているかもしれない…)。

 そして、各国とも、国内に中ロから特権を付与された“特権グローバル企業”を抱えるとなりますと、今日の価値観の対立は、冷戦時代の資本主義対共産主義の単純構図よりも、より一層、複雑化することが予想されます。中ロの軍事的脅威に対抗しようとすれば、とりわけ13億の中国市場に利益を有する国内の“特権グローバル企業”が反対に回るからです。果たして、21世紀はユーラシアの時代として歓迎すべきなのでしょうか。遊牧民由来の思想と利益第一主義との結合によって齎される危機に対してどのように対応すべきか、今日、真剣に考えるべき時期に至っているように思えるのです。(おわり)
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