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2017-09-13 10:31

(連載1)限界が露呈した中ロの対北制裁協力

倉西 雅子  政治学者
 9月12日、国連安保理では、原案に大幅な修正を加えた形で対北経済制裁決議案が全会一致で採択されました。予定されていた全面的な石油禁輸措置は上限設定に緩められ、金正恩朝鮮労働党委員長に対する資産凍結なども見送られるという“骨抜き決議”となったのです。修正の背景としては、北朝鮮の早急な混乱を避けたい中ロによる強固な反対に対して、早期、かつ、全会一致での決議成立を優先したアメリカ側の妥協が指摘されております。しかしながら、本提案の目的が、強力な経済制裁を以って北朝鮮を“兵糧攻め”にし、依って核、並びに、ICBMの開発・保有の放棄を迫るものであるならば、優先順位をはき違えた本末転倒という他ありません。修正案によって合意された主たる項目を検討しましても、悲観的とならざるを得ないのです。

 第一に、石油部門については、原油は過去12か月分が上限とされ、400万バレルの現状の輸出量がそのまま維持される一方で、石油精製品については、年間200万バレルの上限が設定されました(ただし、コンデンセートと天然ガスについては全面禁輸)。アメリカ政府は、この措置で石油輸出量を3割ほど削減できると説明しておりますが、北朝鮮の核・ミサイル開発を放棄させ得るほどではなく、開発完了時期を遅らせる程度の効果しか期待できません。また、公海における禁輸品輸送が疑われる船舶の臨検についても、旗国の合意を要する方向で修正されたため、密輸を取り締まることもままならないのです。しかも、陸運面でも、中国との国境地帯では(元瀋陽軍区)、既に石油の密輸が横行しているため、石油部門での制裁効果は望み薄です。

 第二に、北朝鮮製の繊維については全面的な輸出禁止となり、今年度の貿易額から算定すれば、北朝鮮は、7億5200万ドル程度の減収が見込まれています。繊維産業は石油に次ぐ主要な輸出品ですので、比較的高い制裁効果が期待される部門ですが、輸出の8割が中国向けですので、石油部門と同様に密輸の黙認が懸念されます。

 第三の主たる制裁は、海外で外貨を稼ぐために派遣されている9万3000人あまりの北朝鮮労働者に対する措置です。この措置も、原案にあった即時の強制送還よりも緩和されており、新たな就労許可の付与を禁じるに留まりました(ただし、契約期限終了後は更新できない…)。長期契約を締結している場合には、効果が現れるまでには時間を要しますし、永住資格取得者や密入国者による本国送金の可能性も残されています(この点は、日本国政府にも責任がある…)。(つづく)
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