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2018-01-30 09:45

(連載1)「アフリカ援助で日中が協力する」提案の意味

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 2017年12月31日付けの読売新聞は外務省関係者の証言として、「日本政府が中国にアフリカにおける開発プロジェクトへの参入を呼びかける方針」と報じました。同紙はその背景として、「日本が中国の経済圏『一帯一路』構想に協力することによって北朝鮮の核・ミサイル問題で中国の協力を引き出すこと」を指摘しています。ただし、この指摘には欠けている部分があります。日本政府が今回の協力を提案した直接的なきっかけが「北朝鮮」で、政府内で浮上する対中関係改善論に基づく「一帯一路への参加」がこれを後押ししたとしても、そこには援助の文脈で日本にとっての必要性があったことも無視できません。つまり、日本が中国との協力を模索することは「アフリカ向けの援助競争にブレーキをかけてお互いに利益を確保する」ことにつながるといえます。

 ここで大前提として確認すべきことは、「貧困国のため」という人道的観点があるとしても、開発協力の多くが各国政府の予算から支出される以上、その良し悪しにかかわらず政治と無縁でないことです。日本も例外でなく、日本が主催する東京アフリカ開発会議(TICAD)では1992年の第1回以来、日本の常任理事国入りを念頭に置いた「国連安保理改革」が共同声明などに盛り込まれてきました。国連改革には加盟国全体の3分の2の支持を取り付ける必要があり、常任理事国入りを目指す日本政府にとって、国連加盟国193ヵ国中54ヵ国を占めるアフリカは重要な「票田」。これは資源調達などとともに、日本政府がアフリカ向け援助を増やす大きな要因となってきました。ところが、この日本政府にとって大きなカベとなってきたのが中国でした。天然資源の価格が高騰した2000年代以来、各国はアフリカへの進出を加速させてきました。なかでもアフリカ向け投資、貿易、援助などの規模とスピードにおいて、中国のそれは圧倒的。IMFの統計によると、中国のサハラ以南アフリカ向け輸出額は2000年に約33億6977万ドルでしたが、2016年には648億6553万ドルに急伸。一方、同時期の輸入額は45億8987万ドルから535億2400万ドルにまで増加しており、輸出入ともに中国はアフリカにとって(EUを除き)国単位で最大のパートナーとなっています。そこには資源の調達や市場の開拓、さらに国際的な支持基盤の確保といった目的があるとみられます。その一方で、これと並行して2000年代半ばから日中関係は冷却化。

 こうして日中は「アフリカの国際的支持」を取り合う援助競争を加速させていったのです。それにともない、日中はアフリカでお互いにネガティブキャンペーンを展開。2014年1月、安倍首相はエチオピアなど三ヵ国を歴訪し、140億ドルの援助と貿易を約束。それに先立って谷口智彦内閣官房参与(当時)は英国BBCのインタビューに対して、「日本や英国といった国はアフリカの指導者に美しい邸宅や美しい官舎を提供することはできない」と発言。相手国政府との関係を強化するため、中国の援助には政治的有力者へのプレゼントに近いものが珍しくなく、この発言は言外に中国を批判するものとみられます。一方、その直前に安倍首相が靖国神社を参拝していたこともあり、そのアフリカ歴訪の直後に中国の解暁岩エチオピア大使はアフリカ連合(AU)の場で、安倍首相を「アジアのトラブルメーカー」と評しました。冷戦期、政治的に対立していた米国とソ連は、アフリカを含む開発途上地域で支持を競い、援助をそのための手段として用い、さらに相手に対する国際的信頼を損なう宣伝に余念がありませんでした。アフリカをめぐる日中の援助競争は、これを想起させるものといえます。

 2000年代から欧米諸国の間でも、「縄張りへの侵入者」として中国のアフリカ進出には警戒感が生まれていました。しかし、日本と中国の関係は、欧米諸国との関係より複雑なものになりがちでした。ここで重要なことは、日本の場合、立場は欧米諸国に近くとも、援助の内容や考え方は中国に近いことです。欧米諸国の場合、特に1990年代以降、教育や医療といった社会サービスを無償で提供する援助が一般的です。そこには、経済成長より貧困対策を優先させる姿勢が顕著です。また、援助と政治改革の要求をセットにすることも珍しくありません。これに対して、日本は中国と同様、ローンを組んで大規模なインフラ整備を行うことを援助の柱にしており、経済成長に軸足を置いています。また、援助とビジネスを明確に区分けしようとする欧米諸国と異なり、日本政府は民間企業の投資も「国際協力」に含めています。さらに、相手国の内政に口を出すことは、ほとんどありません。つまり、その良し悪しは別として、日本は「西側先進国の一国であること」を外交上の大方針としていますが、その援助スタイルはむしろ中国のそれとよく似ているのです。その結果、日本と中国はインフラ整備を重視する援助において競合しやすいといえます。いわば「似た者同士」であることで、日本は中国との差別化の必要上、欧米諸国以上に中国を意識せざるをえないといえるのです。(つづく)
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