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2018-03-27 10:31

(連載2)スリランカは「右傾化する世界の縮図」

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 2014年の事件の後、警察は暴動を扇動したBBS関係者を呼び出したものの起訴せずに釈放し、軍のスポークスマンはBBSを批判しない一方で「軍がBBSを支持しているわけではない」と強調するにとどめています。この背景には、シンハラ人の全てがBBSなど過激派の支持者でないものの、一般シンハラ人の間にも反ムスリム感情が広がっていることがあります。シンハラ人中心のスリランカ政府にとって、少数派のムスリムをあえて擁護することは国内政治の観点から得策でなく、これが「お目こぼし」に結びついたといえます(この点ではロヒンギャ問題におけるミャンマー政府と同じ)。

 先進国を含めて、どこの国でも外国人や少数派による破壊活動には神経をとがらせますが、「多数派によるテロ」は軽視されがちです。ただし、スリランカの場合、その「お目こぼし」は、とりわけ露骨だったといえます。その後、スリランカ政府は取り締まりを強化。2017年11月には2014年の事件を扇動したBBSの幹部が、同国で初めて「ヘイトクライム」によって逮捕されました。これは、2014年の事件を受けて国連が具体的な改善策を求め、米国がビザ発給緩和の延期を通知するなど、国際的な批判が高まったことを受けてのものでした。

 しかし、スリランカ政府の取り締まりは、いわば「外部を納得させる」程度にとどまり、その後もヘイトスピーチや、それに扇動されたムスリム襲撃への取り締まりは事後的なものに終始しました。例えば、2017年11月に南部の港町ジントータにあるムスリム居住区を数百人のシンハラ人が襲撃し、数十軒の家屋と二つのモスクが破壊された事件で、警察は19人を逮捕。そのなかには、「ムスリムが仏教寺院を破壊しようとしている」というフェイク・メッセージを流布したシンハラ人も含まれていましたが、当局は襲撃以前にこれを取り締まりませんでした。同様に、3月6日の反ムスリム暴動の前日、ナショナリスト組織マハソン・バラカヤの指導者はディガーナの街中でSNSを通じて以下のように呼び掛けています。「この街はムスリムだけのものになっている。我々はもっと前からこれに取り組むべきだった。…ディガーナやその近くにシンハラ人がいれば、来てほしい」。こうした襲撃を示唆するメッセージが流れたにもかかわらず、6日に暴動の対象となった近隣の街にはわずかな警官や兵士しか配置されず、しかも彼らは暴動を制止しようとしなかったと報じられています。

 近年では先進国と開発途上国を問わず、「自国第一」を掲げる政府や政治勢力が珍しくありません。そうした政治家や政府は過激な主張に賛同する支持者を抱えており、これらによるヘイトスピーチやヘイトクライムは放置されやすくなります。イスラーム過激派への対策には熱心でも、白人至上主義者への取り締まりには微温的なトランプ政権は、その象徴です。スリランカのムスリムの一部にIS戦闘員が生まれ、これがシンハラ人に警戒感を抱かせたのは確かです。しかし、「愛国」や「表現の自由」を都合よく使いまわす「お目こぼし」は、結果的に「右翼テロ」を増長させ、ひいては国家全体をさらなる混乱に陥れかねません。スリランカの非常事態宣言は、右傾化する世界の一つの縮図といえるでしょう。(おわり)
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