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2007-04-23 19:01

求められる中国政治体制の動向分析

木暮正義  元東洋大学教授
 中国の社会主義市場経済への移行以来、わが国ではこの改革開放体制をめぐる経済学論争が中国研究の主流を占めてきた。これに対して改革開放体制の政治動向をめぐる政治学論争は極めて貧困であり、文字通り「政冷経熱」の状態にあると言って過言ではあるまい。しかし最近のアメリカの事例を取ってみても、2005年9・10月号の『フォーリン・アフェアーズ』の鄭必堅の「平和的台頭」論文の掲載やまた同年1・2月号の『フォーリン・ポリシー』の「中国勃興」特集など、改革開放体制の民主的移行を視野に熱い体制論議が交わされている。そこでここではアメリカにおける最近の中国政治の体制分析論争を紹介しつつ、その権威主義体制の将来展望について若干の論議を検討してみよう。

 コロンビア大学のA・J・ネーサンによれば、中国政治の将来展望に関して現体制の民主化、崩壊そして存続の三つのシナリオが存在すると要約している。第一の民主化シナリオはJ・マンの「円滑シナリオ」であり、S・M・リップセットやS・P・ハンチントンに遡及する経済成長と民主化の相関仮説である。鄭必堅論文に呼応したR・ゼーリックの「責任ある利害関係人」の主張は、ブッシュ政権の「エンゲイジメント政策」の代弁であった。市場経済のグローバル化を前提に新国家資本主義の利点を生かした西部や東北部の雁行的開発の成功を踏まえ、政治レベルでは「三つの代表」による政治参加の拡大と共産党の国民政党化が進行すれば、台湾・韓国型の政府主導の保守的民主化の可能性が想定されるからである。しかし郷鎮レベルの党主導選挙の腐敗と特権化した党官僚の抵抗は、「円滑シナリオ」の空虚さを如実に示しているとの反論が存在する。

 そこで第二の「崩壊シナリオ」はカーネギー国際平和財団のミンシン・ペイの「略奪国家論」に代表される。ペイは中国の風土病とも言うべき党と行政機関による公共財や私有財の略奪や汚職の権力化が、人民中国をクローニー資本主義の罠に陥れアフリカ諸国に類似の「略奪国家」に変えてしまったと主張する。上海の陳良宇市党書記解任に代表される党と行政機関の腐敗を前提に、改革開放体制が既に崩壊の淵にあるとのG・G・チャンの主張も肯定しうるところである。しかしペイやチャンも見逃しているのは、中国の権威主義体制の強み―中央の党指導部が党内闘争を繰り返しながら、人民解放軍の支持を背景に強固な団結と権限を掌握し強力な指導力を維持している自助努力である。

 ここから第三の「存続シナリオ」としてラ米的社会不均衡を克服し「アジアの奇跡」を越えた豊かな権威主義体制存続のシナリオが生じる。党指導体制を掌握した胡錦濤・温家宝体制の政策目標である「和諧社会」の実現に向けて、経済成長の持続と政治の限定的開放による「戦略的調整」の有効性を前提に、第一の民主的移行パラダイムの否定が生じる。ペイも究極的には「連邦化」を示唆するに止まっている。それゆえシカゴ大学のJ・J・ミアシャイマーは「中国はアメリカが西半球を支配した方法でアジアを支配しようとしている」と、海洋国家化する中国の地域ヘゲモニー志向に鋭い警戒の目を向けているほどである。「歴史の終わり」の終わりの時代の21世紀に出現した豊かな権威主義体制の中国に対して、わが国でもグローバルな民主と平和の更なる戦略的論議が必要であろう。
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