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2018-07-16 17:47

(連載1)制裁の困難さ

緒方 林太郎  元衆議院議員
 最近、北朝鮮に対する国連安保理制裁の実施の難しさに関する古川勝久著『北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録』(新潮社、2017年)を読みました。国連対北朝鮮制裁専門家パネル委員の古川氏が裏側をかなりリアルに書いています。「こんな事、書いていいのかな」と思うくらい、とても面白いです。かつて、対タリバーン制裁やテロ関連条約での核・ミサイル関連物資の規制を担当していた事があるので、この本で紹介される困難がとてもよく分かります。

 制裁は歴史と共に精緻化されてきています。昔は結構大括りでやっていまして、たしか記憶が正しければ、アンゴラの武力抵抗組織UNITAに対して国連安保理制裁が科された時は、アンゴラ全土に外為法上の制裁をしたはずです(違っていたらすいません)。その後、国内でそれはやり過ぎだという事になって、制裁対象だけに制裁を科すようにしたのですが、私はこれで頭をぶつけました。対タリバーン制裁の際、某省から「アフガニスタンにおいて、タリバーンとタリバーンでない人を見分けるにはどうしたらいいか。」という問を投げかけられまして、「そんなもん、無理に決まってんだろ。」と途方に暮れました。

 したがって、日本での対タリバーン制裁の具体的な実施は、安保理決議が採択されてからかなりの時間が経っています。決議1267が1999年10月、決議1333が2000年12月に採択なのですが、実際の外為法による制裁実施は2001年9月、つまり9.11直後です。それはともかくとして、上記の本では国連の対北朝鮮制裁パネルのメンバーとしての苦労が多く書かれています。そこで挙げられている問題点は大まかに以下のように要約されるのではないかと思います。 

 (1)名前が変わると捕捉されない:上記のような時代の前後から制裁のやり方が更に変わって来ていて、スマート制裁が主流になっています。武器の輸出等については国全体を対象とするのですが、金融制裁については、特定の会社や個人をピンポイントで狙い撃ちするのが主になっています。制裁で「切り過ぎ」を出さないようにするための手法です。ただ、これがなかなか困難なのです。一番厄介なのが名前が変わってしまう事です。古川氏の本でもこういう事例がたくさん出て来ます。会社の名前を変えてしまったり、間にペーパーカンパニーを一枚噛ませられたりすると、制裁対象で無くなってしまいます。また、個人レベルでも、パスポートを偽造する事で別人に成りすまされたら、もう捕捉できません。ちなみに意外に難しいのはアラビア語。ムハンマドという名前を英語でどう表記するかはかなりの可能性があります。アラビア語は、私の理解では「子音の言語」なので、母音の使い方が人によってかなり異なります(Muhammad、Mohammad等)。そして、金融制裁では一文字違うとそもそもコンピューターでヒットしないのです。私がインチキをして、「Rintaro」を「Lintaro」に置き換えるとヒットしないというのと同じです。なお、かつて特定船舶入港禁止法で「万景峰92号」が対象となっていた時代、「あの船が『万景峰93号』として日本にやってきたらどうなるのか?」というテーマをかなり深く研究した事があります。今は北朝鮮船籍の船舶すべてが対象となっているので、もうそういう問題は生じません。(つづく)
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