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2018-07-20 21:10

物価停滞をなぜ嫌う日銀の錯誤

中村  仁  元全国紙記者
 新聞を読んでいて、しばしば目につくのが、黒田日銀総裁が苦悩の色を浮かべている写真です。浮かぬ顔というか、かつては自信満々だったのに、悄然とした顔つきに変わっているのです。金融政策で物価をどうにかできるはずだというのは思い込みで、間違いだと気づいたからでしょう。多くの国民は今の物価状況を歓迎しています。間違いだったとしても総裁は悩まなくてもいいのです。悩むとすれば、異次元金融緩和、国債の大量購入にストップをかけられない、だから政権は財政再建に本気で取り組まない、金融の正常化で米欧に遅れをとっている。将来、どういうことになるのか。これが総裁の苦悩の理由なのでしょう。

 日銀は物価が上がらない原因をあれこれ探るのに必死です。総裁は6月の記者会見で、「Eコマース(ネット通販)の普及により、消費者はネット上で全世界のモノやサービスを比較して購入できるようなった。アマゾン効果とも呼ばれ、価格上昇が抑制されている」と、強調しました。原油の下落を強調していた時期ありましたね。最近はネット通販です。消費者物価上昇率は3月の0・9%から、4月の0・7%に低下しました。日銀は「実店舗を持たずに、商品を安く販売できるネット通販は、今後も伸長するので、物価目標の2%の達成は難しい」との見方です。ネット通販で安く手に入ることは国民は歓迎するのに、日銀は困るというのはどこか変ですね。総務省の調べでは、ネット通販の多い家電などの耐久消費財に、値下がりが目立つといいます。5月調査では、電気掃除機は24%下落、電子レンジは20%下落、空気清浄機は10%下落で、家電は輸入品が多く、年初来の円高(輸入価格が下落する)の影響もあるといいます。ネットで価格を調べないで家電を購入する人は3割しかおらず、末端価格を押し下げているのです。いいことではないですか。

 ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は、グローバル化やネット通販など「中央銀行の手が及ばない構造要因が物価下落の一因」と言っています。米国のパウエル連銀議長(中央銀行)は「過度の金融緩和で無理やりにインフレを作り出すのは問題」といい、黒田総裁のスタンスとは差があります。家庭に退蔵されている中古品がネット通販に出品されることも多くなっています。ゴルフクラブでは中古品の全国チェーンを展開している業者もおります。日本郵政社長の長門氏は「Eコマース(ネット通販)は新品ばかりでなく、中古品市場まで急拡大し、物価を押し下げている」といいます。こうした動きを異次元金融緩和で押しとどめようとしても、無理です。ネット通販のプラス効果を尊重すべきです。今春、日銀副総裁に就任した若田部氏は「金融政策でできないことはない。デフレに戻る可能性があるのなら、躊躇なく追加緩和をすべきだ」と強調しています。内部にこうした論者を抱えている黒田総裁も頭が痛いところでしょう。日銀の政策委員会に、金融政策以外の産業論、財政論も分かる委員を加えておくべきなのです。

 経団連の新会長になった中西・日立製作所会長は「ソサイエティ5・0」というスローガンを掲げています。コンピューターによる情報社会はさらに一歩進み、「デジタル技術で膨大なデータを集め、色々な結論を導きだす。その知恵を使って社会問題を解決する時代」というのです。産業・情報社会の構造変化は消費者に多くの恩恵をもたらすはずです。ネット通販による物価の下落効果(アマゾン効果)もその一つでしょう。日銀が「それは物価2%目標にとって都合が悪い」と思うのはどんなものでしょうか。物価目標の達成に効果がないのに、いつまでも大量に国債を買い続け、その結果、財政再建は進まない。最近、あちこちから聞こえてくる「金融政策の方向を転換すれば、金利が上昇して景気は下降し、株は下落するから、急ぐべきでない」は、今さら何をいうのかですね。いつまでも巨大な金融緩和を続けた結果、この道から出るに出られなくなってきたというのが正しい認識です。
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