国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-10-30 11:38

(連載2)アメリカの対中FTA阻止条項要求

倉西 雅子  政治学者
 第一の理由は、FTAを締結しますと、様々な移動要素は‘高きから低きへ’と流れますので、価格競争力において有利となるのは中国、並びに、その他のRCEP加盟国です。また、労働コストや不動産価格等の競争力から、製造拠点の流れは日本⇒中国+その他加盟国となりましょうし、資金力の規模の面からすれば、企業買収資金の流れは逆に中国⇒日本となると同時に、日本⇒中国の技術流出の流れが生じましょう。これらの移動が一斉に起きれば、日本国の産業の空洞化が加速され、日本市場は中国の‘草刈り場’となりかねないのです。

 第二に挙げられる点は、共産党支配による中国の政経一致の国家体制です。中国では、近年、企業に対する共産党のコントロールが強化されており、グローバル展開を志向する政府系企業のみならず、民間企業であっても共産党の息がかかっています。日中経済関係が深化すればするほど、様々なルートを介して日本経済にも中国共産党の影響力が及び、その従属下に置かれるリスクが高まります。意に沿わない日本企業に対しては、中国政府は容赦なく制裁を加えることでしょう。しかも、中国では、遵法精神が低く、かつ、法の支配が確立していませんので、たとえ日系企業が不利益を受けたとしても法的救済の手段はありません。現状でさえチャイナ・リスクが懸念されているのですから、仮にRCEPが成立すれば、この傾向に拍車がかかるのは必至です。

 第三の理由は、米中関係のさらなる悪化が予測されることです。‘新冷戦’とも称されるように、米中の対立は、経済分野に限定されているわけではありません。この対立構図からしますと、RCEPとは‘旧冷戦’時代にあってアメリカの同盟国である日本国が仇敵であるソ連邦とFTAを結ぶようなものです。現実には、共産主義国への技術流出を防ぐためにココム規制などがあったのですから、FTAを介して軍事に転用可能な民間技術や情報等が‘敵国’に流出する状態を放置するはずもありません。早かれ遅かれ、上記の‘日米通商協定を選ぶのか、RCEPを選ぶのか’の二者択一は、政治的にも、‘アメリカを選ぶのか、中国を選ぶのか’の選択となるのです。

 中国という国が、自由、民主主義、法の支配、基本権の尊重といった人類普遍とされる諸価値を蔑にし、共産主義イデオロギーの名の下で犯罪や人権侵害行為さえも正当化しています。こうした非人道的な国を加盟国とした広域的な自由貿易圏を形成することは、アメリカからの要請がなくとも、日本国自らの判断として控えるべきことのように思えます。人には状況の変化に対する高い対応能力が備わっているのですから、中国抜きで経済の繁栄を目指すという方向性もあるのではないかと思うのです。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム