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2018-12-06 11:42

(連載2)入国管理法改正案の隠れたリスク

倉西 雅子  政治学者
 サンダーランドの事例は、外国企業による外国人雇用の形態が、進出先国を振り回すリスクを示しています。仮に、‘ブレグジット’に伴い、イギリス国内で外国企業に雇用されていた外国人が一斉に解雇された場合、一体どのような事態が起きるのでしょうか。雇用側である外国企業は、別の国に工場を新設、あるいは移転し、その地で新たに人員を採用すれば経営上の問題は解決します。その一方で、被雇用者となる外国人労働者本人、並びにその家族が既に永住資格や国籍を取得している場合には、国内の失業率は跳ね上がり、政府は大量に発生した移民系国民の失業対策に苦慮することとなりましょう。

 グローバル企業は、経営環境が変われば、臨機応変にグローバルレベルでのサプライチェーンの組み換え等を実行して対処できますが、雇用される側は、企業と共に移動するわけではありませんので、最悪の場合には、企業が去った後に移民問題だけが残されてしまう可能性もあるのです。実際に、2018年4月には、日産は、サンダーランドの工場において数百人規模の人員削減を発表しています。今般の削減理由はディーゼル車需要の縮小ですが、理由が何であれ、グローバル企業と国家や国民の利害は必ずしも常に一致するわけではないのです(自国企業の場合には、国内経済への配慮から外国人雇用率は比較的低くなるのでは…)。

 もっとも、日産は、これに先立つ2018年3月に、パキスタンでの生産再開を公表しています。もしかしますと、サンダーランド工場で雇用していたパキスタン人をその出身国に帰還させる予定なのかもしれませんが、外国の製造拠点で外国人労働者を呼び寄せて大量に雇用するよりは、現地に工場を建設した方が、移民問題の発生を防ぐ、あるいは、その深刻度を緩和することはできるのかもしれません。

 何れにしても、日本国政府は、移民問題に直面してきた諸外国の事例に学ぶべきです。そして、内外企業を同等の待遇を与える方向に法律が改正される傾向にあるからこそ、外国企業による外国人労働者の雇用の問題にも関心を払うべきなのではないでしょうか。近年、日本国内では、政府の旗振りの下で外国人による起業も増加しており、外国企業による外国人雇用の問題は他人事ではありません。初年度は4万人を見積もっても政府は外国人労働者数に上限を設けない方針ですので、中国系を含む外国企業による外国人雇用を含めれば、膨大な数の外国人労働者が流入してくるかもしれません。そして、何らかの外的要因で経済が変調をきたすようなことがあれば、それによる負の影響は、受け入れ国の政府と国民がすべて引き受けなければならないのです。このように考えますと、入国管理法の改正は、将来において予期せぬ危機を招きかねないのではないかと思うのです。(おわり)
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