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2019-06-11 10:51

(連載1)日米通商交渉あれこれ

緒方 林太郎 元衆議院議員
 日米通商交渉で、結構、日本が譲歩しているようです。全然どうでも良い事ですが、もう物品貿易協定(TAG)といったバカバカしいネーミングは使わなくなってきましたね。私はもう殆ど交渉は終わっており、あとは発表するタイミングだけになっていると見ています。昨年9月の日米共同声明では、日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること、米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであることを述べた上で、お互いの立場を尊重するとなっています。幾つか国内に誤解のようなものがありますが、国際法用語で「尊重」とは「順守」ではありません。あくまでも「そう言っている事を尊重する」だけでして、お互いの立場が結果に反映されなくてはならないという意味はありません。過去の外交文書で、「尊重」をそういう意味で使っているものがあります(例えば、有名なものとしては日中共同声明の三)。トランプ大統領が「TPPの結果には縛られない」と言っているのを良しとするつもりはありませんが、「日本がそういう立場でいる事を尊重した上で、アメリカとしてはTPPの結果に縛られない」という理屈は大いにあり得るのです。閣僚や政府要人の発言を聞いていると、その間の微妙なモノの言いに徹している事が分かります。
 
 そして、日本はどうしても負け癖が付いているのか見落としがちですが、アメリカにとって日本の自動車産業は怖いのです。日本がアメリカの農林水産品の競争力を恐れるのと同じレベルで、アメリカは日本の自動車産業を恐れているのです。だから、共同声明で、並列で書かれているのです。なので、本来のパワーバランスから言えば、農業で日本に押し込もうとするなら、アメリカに自動車で押し込まなくてはならないでしょう。そこでバランスを取るのが共同声明の趣旨であり、それを確保するのが政治の役割のはずです。ここ数週間の日米通商交渉関係報道を見ていると、直感的にはこのバランスが取れていない形で日本が譲歩しているのではないかと思うのです。
 
 仮に農産品で譲っているとしても、自動車で成果を獲れているのであれば、(農業関係者は不満だとしても)全体としてのバランスは維持できていると言えるかもしれませんが、そのバランスすら取れていないので、成果の発表は参議院選挙の後となっているのでしょう。まず、牛肉については関税撤廃をコミットしていると思います。これまで、日オーストラリアFTAで23.5%、TPP11で9%(16年の削減期間)と下げる事になっています。毎回、与党は「(これ以上下げられない)レッドライン」と言うのですが、今回で2回目のレッドライン切りになっているでしょう。もう「レッドライン」という言葉が安っぽくなっているので、金輪際使わない方がいいでしょう。信じさせられている国内の肉牛農家の方が可哀想です。
 
 スタートラインがTPP11の9%から交渉がスタートしているはずですから、ちまちまと5%とか3%とかで落ち着いているはずがありません。何処かで撤廃を約束しているように思います(撤廃まで行っていなくても、0%輸入枠の創設をしているでしょう。)。WTOの世界では5%未満の関税というのは、ニューザンス・タリフ(邪魔者関税)と呼ばれていて、大して保護効果もないのに無駄に残っている関税という位置付けです。日本はニューザンス・タリフを残すために頑張っていないと思います。(つづく)
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