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2007-06-05 10:55

BMDと集団的自衛権

木下博生  (財)日米平和・文化交流協会理事
 安倍内閣になって、集団的自衛権をめぐる議論が賑やかになった。憲法九条に関する今までの政府見解を変えて、特定のケースについては、集団的自衛権を行使し得るようにできないかと安倍総理以下が考え、内閣に専門家からなる懇談会を設けて検討を始めたからである。

 その特定のケースの一つとして、弾道ミサイル防衛(BMD)システムがあげられている。我が国は、アメリカからBMDシステムを導入中であるが、日本に向けて発射された弾道ミサイルが上層のコースに達した段階で、それを要撃するシステムとして、イージス艦にSM-3ミサイルを配備することが決まっている。

 また一方、日米両国は、SM-3よりも更に能力の高い21インチ・ミサイルを共同開発しているが、これが出来上がると、アジア地域からアメリカ本土を狙ってより高い弾道を飛ぶ長距離ミサイルをイージス艦により要撃することが可能になると言われている。そこで問題となっているのは、日本ではなくアメリカを狙って発射された超長距離の弾道ミサイルを、日本のイージス艦が日本近海からBMDを使って打ち落とすことが認められるかどうか、それをやれば集団的自衛権の行使にならないか、という点である。

 この問題が私的懇談会で検討されると伝えられているが、私は、新21インチ・ミサイルをそういう目的に使えるかどうかだけを議論するのはナンセンスだと思う。というのは、現代の戦争では情報と通信が極めて重要な役割を果たしているからだ。日米両国が保有する衛星や各種のレーダーにより得られる情報を、両国間で交換し共有することが、BMDを共同運用するにあたって必須の要件になっている。BMDの正式配備とともに、日本の自衛隊の情報収集能力は向上することとなるが、これで得た情報は、常時、米軍と共用される。この情報の方が、実際にミサイルを発射しなくとも、米軍にとってはより重要なのである。その情報を使って、必要とあれば自らBMDを実行できる。

 数年前、私はある国際会議で、日本がBMD導入を決めた以上、それから得られる弾道ミサイル情報をアメリカに与えれば、現行の解釈だと集団的自衛権の行使になると述べたことがある。私は「だからBMDは慎重にやれ」と主張しているのではない。BMD計画は大いに進めるべきだ。むしろ、情報と通信が戦闘行為の不可欠な要素になっている現代においては、兵器を使うか否かで集団的自衛権の行使に当たるかどうかを議論すること自体が無意味であると言いたいのである。
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