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2019-12-06 16:06

(連載1)中村哲医師殺害の報に接して

武田 悠基 日本国際フォーラム研究員
 12月4日午後、アフガニスタンで同国の医療・農業支援などに長年取り組んできた中村哲医師が、東部のナンガルハール州で銃撃され死亡した。その後の調べによれば、これは偶発的な事件ではなく、計画的な犯行であったとの線が有力のようである。中村医師の訃報は、瞬時に世界中のメディアで報道され、その功績が称えられた。30年近くにわたり、混乱の続くアフガニスタンで、人々の暮らしを支えてきたその無私の活動は、世界中で敬意をもって受け止められてきた以上、当然の扱いであろう。

 現地のアフガン人たちもソーシャル・メディアを通じて、様々なかたちで中村医師への感謝と追悼の念をつづっている。現地では「中村さん、あなたを守れなくてすみません。日本のみなさん、貴国の輩出した素晴らしい国民を守れなくてすみません。 #SorryJapan」というメッセージが、彼の写真や似顔絵等とともにネット上で発信されている。現職のガニ大統領および同夫人、カルザイ前大統領そして閣僚や地方の有力政治家たち、政府関係者、首都カブールの各国大使、ジャーナリスト、一般市民ら多くの人々が、次々に追悼メッセージを発信している。また中国では、北京に駐在するアフガン大使館の外交官らが、追悼メッセージを伝えようと、列をなして現地の日本大使館に赴いたようだ。

 皮肉なことに、このようなかたちで、現在、アフガンでは、中村医師への感謝と追悼を通じて、この数年間でもっとも国としての一体感が見られるといっても過言ではない。中央政府の統治の及びにくい、しかも内戦の続くアフガニスタンと隣国パキスタンとの国境に近い地域で、アフガン人たちとともに砂漠に水を引き、井戸を掘り、耕し、苗を植え、緑をよみがえらせた。病める者、怪我した者あれば診断し、治療した。そして武器を取った人々の社会復帰を促してきた。そうした援助活動に人生をささげていた中村医師がどれだけ現地で感謝され、敬意をもって受け入れられていたかを改めて思い知らされる。

 それにしても「なぜ?」である。地域の住民からこれほど感謝され、アフガニスタン政府からも名誉市民権と国家勲章を授与された中村医師である。その献身に対し、恩を仇で返すような事件が、なぜこのタイミングで発生したのだろうか。どの組織が、今回の凶行に実際に手を下したかは、今後の捜査の結果を待つしかないが、少なくとも現段階では、次の2つの可能性が指摘されている。第1に、現地の過激派組織による外国の支援活動への妨害工作であったという可能性、第2に、アフガニスタンと緊張を深めている周辺諸国の関与があったという可能性である。(つづく)
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