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2007-06-18 11:27

北京コンセンサスか?

木暮正義  元東洋大学教授
 21世紀の東アジアは発展モデルの実験場となっている。かってハンチントンの民主化の「第三の波」を伴った「ワシントン・コンセンサス」の波は、南欧からラ米を経てインドネシア・タイ・フィリピンなど東アジアに波及しながら、中国の豊かな新権威主義市場経済体制に直面して逆波となっている。とう小平の南巡講話による社会主義市場経済への移行によりシカゴ学派直系のソ連型のショック・セラピーを拒否し、一党制の堅持により「民主化の波」を抑制しつつ経済発展する途上大国中国の出現である。

 しかもこの新権威主義中国の驚異的発展は、既に民主的移行を経験したロシアの権威主義大統領制への回帰さえ誘発して、グローバル化に呻吟にする途上国にとっても「新しい中世世界」の出現として経済発展のモデルとなっている。20世紀的なリップセット以来の経済発展と民主主義の相関という進歩のパラダイム-「ワシントン・コンセンサス」に対峙する「北京コンセンサス」の登場である。UCLAのピーレンブームは『中国は近代化する』の中で、この「北京コンセンサス」を限定的政治改革による国家主導の経済改革と規定して、民主化による貧困と停滞-ラ米化を忌避するベトナム、ラオス、ビルマ、ジンバブエ、中東諸国の発展モデルとさえ規定しているほどである。

 『米中本流』のマンも、近著で近未来の中国について民主化志向の「円滑シナリオ」や体制崩壊の「変動シナリオ」に代わる第三のシナリオを想定しているが、そのレシピは不確定的である。何故なら胡錦涛政権の科学的発展による「和諧社会」の実現には、保守派と民主派の攻撃の飛び交う党派抗争の政策的ナローパスを通過しなければならないからである。胡錦涛政権にとってペイの言う「改革の停滞」の罠を克服しつつ、持続可能な雁行発展による内需主導型経済社会の漸変的創出こそ緊急の課題である。ニューヨーク大学のド・メスキータは、中国におけるグーグルの英語ニュースの禁止やプーチン大統領のテレビの国有化などを例示して、保守派と民主派の攻撃に対する胡錦涛政権側の選択的抑圧のレシピとして「公共財」のうち初等教育の整備、公共輸送、公共衛生、インターネットなど「調整財」の積極的利用を指摘して、「調整財による抑制が大であればあるほど、経済成長と自由民主主義間の相関のラグは大になる」と抑制効果を主張している。

 しかし、事態はメスキータの「戦略的調整」で処理しうるほど単純ではない。かつてミュルダールやウエイドが指摘したネポティズム塗れの「ソフトな国家」の病弊--「中国の風土病」が顕在化しているからである。陳良宇事件に代表される「官民結託」の「略奪国家」、資源爆食型の工業化、公害の深刻化と地域間所得格差の拡大など問題は山積している。現政権から次代の共産党政権にいたる過程において、新権威主義による平和的発展モデルとしての「北京コンセンサス」の21世紀的有効性を、多数の独裁的な途上国と並んで我々先進民主主義国家も固唾をのんで見守っているのである。
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