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2020-04-09 20:12

最近の習近平指導部への試論四論

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
 中国共産党は4月8日、習近平総書記が政治局常務委員会会議を主宰し、今後長期にわたる防疫措置と全面的な生産再開に関する問題を検討した。習総書記は「中国が防疫活動で収めた段階的な成果は今や強固になり、操業・生産の再開も重大な進展を遂げている」とする一方、「世界の感染状況は拡大し、世界経済の下降リスクが高まって不安定・不確定要素が著しく増大している」と指摘し「我々はボトムラインから考え、外部環境の変化に長期間対応する覚悟と準備を整えなければならない」と強調した。8日当日は中国時間の午前零時をもって、1月末以来76日間にわたる湖北省武漢市の封鎖状態が解かれ、また習近平自身の浙江省視察を挟んで3月25日以来2週間ぶりの重要会議開催という結節の時期にあたったが、ここに至る注目事象を以下紹介したい。

2 中国流の情報公開:新華社の場合
 4月6日、新華通信社(新華社)は、中国の「COVID-19」対策を時系列にまとめた長文記録を公表した。この記録は2019年12月下旬から2020年3月末までの主要事象がまとめられており、新華社記者がメディア報道や、国家衛生健康委員会、科学研究機関など関連分野から得た情報から作成したとされる。記録の内容をみると、昨年12月末からの現地・湖北省武漢市の感染発生状況や、爾後の疾病関連情報の報告や防疫活動の展開、その経験・教訓共有のための国際協力推進に関する事象が、主として国家衛生健康員会及び外交部の活動を中心に明らかにされている。そして、その報道対象は米国である。以下、新華社が明らかにした関連事象を若干ピックアップする;
・1月3日 (WHOなどへの疫病情報の通報に続いて)米国への疫病情報・防疫措置の定期的な通報開始
・1月4日 中国疾病センター責任者と米国の疾病センター主任、電話で疫病情報を交換して今後の意思疎通で同意
・1月8日 米中両国の疾病センター責任者、電話で技術交流・協力を討議
・1月22日 国家衛生健康委員会、米国における疾病発症事例初確認の通報受理
・1月27日 国家衛生健康委員会主任、疾病防疫活動に関して米国衛生公衆部部長と電話会談
・1月29日 楊傑チ中央外事工作員会弁公室主任(兼政治局委員)ポンペオ米国務長官と電話会談
・2月2日 国家衛生健康委員会主任、疾病防疫活動に関して米国衛生公衆部部長に書簡を送り再度の意見交換
・2月3日 当日までに米国への疫病情報・防疫措置の通報措置30回を重ねる
・2月7日 米中首脳、初の電話会談
このようにみてくると中国は、2020年に入ってから米国と意思疎通を開始し、疾病防疫活動等で情報交換を行ってきたと認識し、これを公開したことになる。したがって、3月12日に「(COVID-19を)米軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」と自らのツイッターで、こうした米中関係の実態を知らずか根拠を全く示さず「暴言」を吐いた中国外交部の趙立堅副報道局長は「勇み足」であった。これ以降、趙副局長は定例記者会見の場から外されて「謹慎」状態にあったと思われるが、今回の新華社報道の翌4月7日、漸く会見の場に復帰した。他方、この長文記録からは重大な人事異動、全人代会議の延期や応急管理部、科学技術部等の動向、さらに人民解放軍の活動状況が完全に外されており「片手落ち」の内容であったと言える。

3 中国流の情報公開:解放軍報の場合
 こうした新華社の動きに対し、人民解放軍は「沈黙」する組織ではなかった。4月8日、中国人民解放軍の機関紙「解放軍報」は第1面後段から第2面全段にわたる署名記事「グローバルな疫病との戦いに対する中国の答案」を掲載した。その内容は、防疫活動に関する従来の習近平中央軍事委員会主席の指導活動や中国共産党の国家統治体制等のショーアップから始まるが、要点は1月末からの人民解放軍先遣隊450人の武漢投入に始まる医療現場における軍人の奮闘である。例えば火神山医院における医療隊1,400人の活動、湖北省軍区による現地輸送支援部隊(130両の軍用トラックを260人の将兵で運用)の設立・活躍、大・中型空軍輸送機による緊急空輸という「非戦争軍事行動」(MOOTW)の遂行である。しかし、今回の長文記事の中身からも、過去の拙稿で何度か指摘してきた人民解放軍の具体的な動きは「隔靴掻痒」で明らかでないが、①防疫活動の「司令塔」たる「党中央疫情対応工作指導小組」(組長:李克強総理)とは別系統の“軍防疫指導・指揮部”が存在する可能性が高いこと、②中央軍事委員会における「文官」習近平主席以外の副主席・委員ら軍要人は全て部隊等の指導・指揮に関与していること、③この3月から施行された「軍秘密保全条例」(昨年末発布)の下で出動部隊等の公表には一定の制限がかかっていることが推測される。

4 おわりに
 湖北省武漢市の封鎖が解除された4月8日は、奇しくも日本の緊急事態宣言発効の日であった。国情国力の違いがあるとは言え、かたや封鎖解除、こなた緊急事態であるコントラスト。我々は、隣国・中国の動向から何らかの教訓事項を得るべきであると思う。今回の拙稿作成過程でも「百家争鳴」欄に掲載された加藤隆則教授の論稿に啓発を受けたことを付記したい。
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