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2020-04-14 00:10

COVID-19に関する中国軍の対応三論

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
 4月10日、中国共産党中央軍事委員会の副主席である許其亮、張又侠(両者ともに政治局委員)は北京市内で義務植樹活動を行った。また、同軍事委員会委員の魏鳳和(兼国防部長)、李作成(兼統合参謀長)、苗華(兼政治工作部主任)、張昇民(兼規律検査委員会書記)も、同様に植樹活動に参加した。今回、中央軍事委員会主席を務める習近平を除く軍事委員会メンバー6人全員が表舞台に現れたのは、1月の旧正月祝賀会以来約3か月ぶりのことである。何か情勢変化があったのであろうか、先月12日に掲載された拙稿以来の中国軍の動向を以下紹介したい。

2 軍医療部隊の動向
 2月の「突貫工事」で完成直後に感染患者を受け入れた武漢市の火神山医院には、総勢1,400人の医師や看護師が投入されて活動を行った。同医院の政治委員である原華(上級大佐)は「今回の防疫活動は中国軍の応急対応能力を検証した」とし、「(医療)部隊の戦闘準備と訓練の試練にもなった」と指摘した。そして、香港情報によれば、同医院は4月15日、同じ「臨時病院」である雷神山医院とともに除染の後に閉院が決定したとされる。他方、武漢市内には元来、中部戦区の総合医院が存在しており、感染患者の対応に最初から関与したのは同医院であったことが明らかになった。総合医院が医師や看護師に動員をかけたのは1月21日、習近平中央軍事委員会主席が重要指示(20日)を出した翌日のことであり、5日後の26日には約1,000人の医療関係者が現場に投入されたという。しかし、総合医院は約2か月の緊急医療活動を経て3月23日には通常の医療態勢へ復帰した。

3 対外軍事協力の実施
 3月26日、中国国防部は定例記者会見を行い、中国軍がイランとカンボジアに対して「COVID-19」新型肺炎の検査キットや防護服、マスクを提供したことを明らかにした。さらに4月6日、人民解放軍総医院(北京301医院)において初のVTC(ビデオテレビ会議)がパキスタン軍との間に行われた。それは中国軍とパキスタン軍の衛生部門が、北京市、武漢市、パキスタンの3地方を繋いで防疫活動、特に疾病の検査技術や診療方法、臨床対応等について意見交換を行うものであった。これ以降、同様のVTCがシンガポール軍(8日)、ロシア軍(9日)との間にも行われており、今後も継続されていく可能性が高い。

4 おわりに
 このようにみてくると、湖北省武漢市における中国軍の防疫活動は成果をあげて一段落したようにみえ、現地に投入された軍人の撤収活動が間も無く始まるであろう。一方、日本では自衛隊が「災害派遣」として医療支援や生活支援などの活動に従事している。そして、3月末には医療支援を行った自衛隊中央病院が、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された「COVID-19」症例の分析を公開した。これは貴重な成果である。しかし、一部報道によれば防衛省は外国との防衛交流や安保関連の国際会議が全面的に延期や中止に追い込まれている状態だという。問題は防衛当局間の、象徴的なハイレベル交流ではないはずだ。例えば防疫活動に関して、実務レベルで自衛隊中央病院と中国軍衛生部門との間でVTCを通じた意見交換は出来ないのであろうか、一考に値する問題であると思料する。
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