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2020-08-07 22:40

幻と消えた「戦後最長の景気拡大」の虚実

中村 仁 元全国紙記者
 景気が拡大から後退に転換していた時期を「18年10月」と、内閣府は認定しました。安倍政権は19年1月に「景気拡大は戦後最長になった」と語り、アベノミクスの成功の証明書にしたかったのでしょう。その時、景気はすでにピークをうち、下り始めていたのです。コロナ危機が始まる直前の今年2月まで、政府は「景気は緩やかに回復を続けている」と言い続け、「回復」と言わなくなったのはコロナ危機が始まった3月です。戦後最長はいざなみ景気の6年1か月(02年2月ー08年2月)で、今回は5年11か月(12年12月から)でした。
 
 もっとも国民や産業界にとっては、記録更新はどうでもいいことでした。景気回復といっても、実質成長率は1・1%、1人当たりの実質賃金はマイナス0・5%でしたから、成長が止まっているという感じでした。「景気拡大」の実感がないのに、異常な金融緩和で株価は高騰していました。「株高だから景気もいいのではないか」は錯覚に終わりました。アベノミクスは当初、「デフレ脱却のために消費者物価を2%引き上げる」ことが目標でした。それが次第に、株高政策、円安政策、財政ファンナンス(日銀による実質的な国債購入)にシフトしていきました。「戦後最長」の虚の部分です。日本で景気拡大が続いていたといっても、08年のリーマン国際金融危機の谷底から這い上がるため、各国がとった景気対策で世界経済が上向きに転じ、その流れに乗ったまでのことです。「アベノミクスの成果」と誇れるほどのことではありません。同様に、景気拡大が止まったのも、安倍政権の責任ではありません。米中貿易摩擦が激化し、中国経済が減速したのがきっかけでしょう。経済の相互依存が深まるグローバリゼーション下では、日本が単独で景気をよくすることは難しい。政治は都合のいい面だけを拾い出す悪い習性があります。世界全体がコロナ危機もあって、構造的な低成長期に入ってしまったようです。今後の問題は、「低成長下で金融緩和を続けると、株などの資産価格は上がり、富裕層はさらに豊かになり、社会に格差が広がる」「低成長下でも高成長する企業があり、成長率で経済を語る意義が低下している」です。
 
 さらに「金融財政政策では成長率を押し上げられないことがはっきりしてきた」という問題があります。それにもかかわらず、政治的動機から、多くの国で異常な金融緩和、財政拡大の道に迷い込んでいる。その後遺症は重く、出口は簡単には見つからない。日本だけでなく他の先進各国も、景気拡大の代償として、危機的な財政赤字を招いているのです。コロナ危機対策が加わり、日本のGDP(国内総生産)比の債務残高は250%に達していますが、財政危機という「日本問題」は各国共通の問題になりつつあります。各国も似たような財政に陥っており、米130%、英95%、独70%です。世界全体の公的債務残高は、GDP総額の100%(IMF)だそうです。世界全体が「日本病」にかかっています。「コロナ危機対策が最優先」の時代ですから、今は「金融財政問題は後回し」が大手を振っています。「コロナ危機対策なら何でもあり」の事態ですから、何でも通ります。いづれコロナ危機は収束します。その時、どうやって金融財政政策を正常化するかです。コロナ対策のツケが回ってきます。 
 
 株高を演出し、いかにも景気がいいように見せかける「政治経済学」が定着してきました。コロナ危機収束しても、迷路に踏み込んだ金融財政政策を正常化することは容易ではない。正常化しようとすれば、株価の下落を招きますから、政治的に容認できない。容認する勇気のある政治家はいません。「インフレにして債務残高を実質的に減らしていく」しかないという主張も聞かれます。世界経済が大混乱に陥り、経済破綻する国が増えてくれば、その国では破局的なインフレが起き、債務を帳消しにしてしまう。中小国ならともかく、主要国はそのような手を使えません。コロナウイルスより怖いのはこうした問題です。
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