国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-01-13 15:34

中国改正国防法への深刻な懸念

倉西 雅子 政治学者
 中国は、昨年末11年ぶりに国防法を改正し、2021年1月1日から施行しました。習近平国家主席による署名も全国人民代表会議における可決承認の手続きもそれに先駆けて済ませており、そのスピード感には驚かされます。そして、同法の改正において何よりも驚愕させられるのは、‘発展的利益’という表現の出現です。
 
 これまで同国が人民解放軍の軍事行動の対象としてきたのは主として国家主権、並びに、領域でした。しばしば‘核心的利益’という言葉も用いられてきましたが、その言葉が曖昧な故に、明確に侵略的と断定することは難しい表現でした。しかしながら、今改正案には、従来にはない‘発展的利益’という言葉の使用によって、同国の侵略性が明示されていると筆者は考えます。‘発展’という言葉には、拡張主義的な意味合いが含まれているからです。一方、国連憲章第51条にあって加盟国に対して軍事力の行使を認めているのは、個別的であれ、集団的であれ、自衛権のみです。他国の攻撃から国家主権、領域、並びに、国民を護るための正当防衛権としての軍事力の発動に含まれない、‘発展的利益’のために武力を行使することは、国際法上の違法行為なのです。すなわち、常任理事国でありながら、国連憲章に違反しているのです。しかも、中国は、同法が定める‘発展的利益条項’を、軍事面のみならず、政治や経済を含むあらゆる分野に対しても適用することでしょう。例えば、中国の経済発展を阻害するような他国のあらゆる行為に対しても、国内法に依拠して軍事力が行使され得ます。今般の改正が、対中経済制裁を科しているアメリカを牽制する狙いがあるとする説明も、こうした事態を想定してのことなのでしょう。同法の改正は、米国の軍事力を前にした自国のそれへの自信が格段に高まっていることを示唆しています。
 
 日本国もまた、同法が定めた‘発展的利益’がもたらす脅威から逃れることは困難です。例えば、一帯一路構想を巡る日本国の非協力的態度が‘発展的利益’を害したと中国にみなされた場合、人民解放軍を用いた何らかのカードが切られるかもしれません。武力による威嚇は、国際法上の違法行為であるにもかかわらず、中国は国際法秩序から逸脱した暴力によって他国に公然とものごとを強要するかもしれないのです。
 
 安倍路線の継承と言われた菅政権ですが、昨今は二階幹事長や公明党をバックとする親中姿勢が色濃く見られ、日本国の行く先が案じられます。日本国を含む国際社会は、先ずもって‘発展的利益条項’の削除を求めるべきですし、中国が振りかざしている暴力主義には断固とした姿勢を示すことこそ重要です。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム