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2007-07-24 17:00

プーチン大統領による欧州通常戦力(CFE)条約履行停止の背景

西川恵  ジャーナリスト
 ロシアのプーチン大統領は欧州通常戦力(CFE)条約の履行を停止する大統領令に署名した。米国が推進するミサイル防衛(MD))の東欧配備への対抗措置だというが、軍備管理問題が資源問題と並ぶロシアの政治的駆け引きのツールとなりつつあることに注意すべきだろう。

 現在、西側とロシアの安全保障管理体制は(1)CFE条約、(2)中距離核戦力(INF)廃棄条約、(3)第1次、第2次戦略兵器削減条約(START1,2)--の3本柱で支えられている。多くが冷戦末期に結ばれたが、冷戦後、バルト3国や中央アジア諸国が独立し、さらに北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大で、ロシアは西側に対して大きく劣勢になった。この安全保障管理体制を一部修正ではなく、根本から組み替えたいというのがロシアの本音だろう。ただプーチン政権下で、これが純粋な軍備管理問題を超え、国際政治の諸課題を有利に運ぶための駆け引きのツールとなりつつあることは注目されていい。

 冷戦時代、ソ連にとって軍備管理問題は西側を揺さぶり、米欧離間を図るツールだった。それはまた政治課題で譲歩を引き出すためにも活用された。しかしロシアになってそうした態度は姿を消し、軍備管理の諸条約の修正問題にはプラグマティックに対応する態度をとってきた。プーチン大統領はそれを転換したのである。

 今日、西側とロシアは冷戦時代にも似て、コソボ独立問題、中央アジアへの影響力の競い合い、国内民主化など、多様な懸案を抱えている。加えてこれまで親密な関係にあったドイツ、フランスが、メルケル独首相、サルコジ仏大統領の登場で、ロシアに厳しい姿勢をとるようになった。この対立情況の中で、ロシアはCFEを駆け引きのツールとして、西側に揺さぶりをかける手段に出た。西側とロシアの軍事バランスからいって、西側に差し迫った問題ではないが、軍備管理問題が石油・天然ガス問題と並んでロシアの駆け引きのツールになりつつあることは、西側の対ロ外交に一層の複雑さを加えることになろう。
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