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2007-07-24 17:12

日豪安保共同宣言の「二国間的」意義

福嶋輝彦  桜美林大学国際学部教授
 先日シドニーの友人から、7月初めにキャンベラで開催されたオーストラリア日本研究学会の全国大会の模様について興味深い話が送られてきた。7月で日豪通商協定調印ちょうど50周年を迎えるというので、大会の晩餐会に何とハワード首相が現れ祝辞を述べただけでなく、予定時間をオーバーしても関係者に話しかけまくるという熱の入れようだったと言う。

 この様子を友人は「早くも選挙モードに入っている」と評していたが、今年は選挙の年であり、政府与党は色々手を尽くしてはいるものの、世論調査で野党労働党に10ポイントあまりのリードを許したまま挽回できない状態が続いている。ハワード首相と交代する見込みが強くなってきているラッド労働党党首は、流暢な中国語を操り、今年3月の日豪安保共同宣言の際にも、日本との公式な協定締結には反対という立場を打ち出し、与党の対日政策との違いを際立たせている。6月15日掲載の佐島直子氏の当掲示板への投稿でも、インドネシアとの安保協力協定締結後の選挙で大敗を喫し、退陣を余儀なくされた労働党のキーティング前首相の例になぞらえて、選挙後の日豪安保協力の一時的後退を懸念する声を寄せている。

 しかし、戦略面だけでなく、日豪政治外交関係の全体像に注目してみたい。日豪安保共同宣言は、オーストラリアが関係緊密化のイニシアティブを取り、日本が慎重ながらもそのリードに乗り、着実に関係を固めていくという、戦後60年の日豪関係の展開パターンの延長上にまさに位置するものである。安全保障対話にしても、環太平洋連帯構想が唱えられた時代にさかのぼり、以来日豪間で目立たないながらも着実に続けられてきた。自衛隊のカンボジアPKO派遣に対して、一貫して強い支持を寄せていたのも、アジア太平洋外交を重視した前労働党政権にほかならない。3月の共同宣言は、対テロ・密輸という、両国が共有する利害に関わる分野での協力を謳っているだけに、労働党が政権を奪取したとしても、二国間安保協力をせき止める理由はあるまい。日豪間で一度新たなパートナーシップが始まったからには、これまでどおり、目立たぬ形でも着実に実績が積み重ねられていくことであろう。
 
 先のシドニーの友人からのメールの末尾に、「7月21日は最悪だった。ラグビーではニュージーランドに負けるし、サッカーでもPK戦で日本に敗れてしまった」と綴ってあった。スポーツをこよなく愛するオーストラリア人が、サムライ・ブルーをオール・ブラックスと並列させたことは重い意味を持つ。サッカーで「入亜」を果たしたオーストラリアでは、アジア・カップの準々決勝戦を前後して日本こそアジアでの宿敵としてふさわしい、という論調が出てきている。

 サッカーでも安保協力でも偶然の符合ではあるが、この1-2年で急速に日豪の距離が縮まった。とはいえ、この関係の構築が一朝一夕のものではなく、その礎には過去に水面下での着実な交流が重ねられてきたことを改めて認識したい。
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