国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-04-10 17:13

中国関連「ベタ記事」報道から見えるもの

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 4月10日付「読売新聞」の報道によると、雲南省の共産党員会は8日、ミャンマーと国境を接する同省瑞麗市トップのキョウ(龍の下に共)雲尊・市党委員会書記を解任したと明らかにした。瑞麗市では3月末以降、新型コロナウイルスの感染者が連日確認され、防疫対策の不備を問われたという。こうした報道に接して、雲南省現地の情勢を「人民ネット」から確認すると、キョウ書記の更迭は事実であり、後任にはテキ玉龍が任命された。なお、キョウ前書記は党内職務・政務から外れて一級調査研究員に降格された。更迭の理由となった「3.29疫病発生事案」以降、雲南省では感染者88人(国内感染84人、海外流入4人)が計上されている(4月9日現在)。他方、この更迭事例が明らかになった同日、雲南省指導部(党委員会書記、省長、政治協商会議主席)は同省第二の都市・曲靖市を訪れており、省都・昆明市に代わる「副都心」建設構想を打ち上げていたが、責任感・使命感・緊迫感に欠けた活動であると言わざるを得ない。
 しかし、1月24日付の拙稿で明らかにしたように、首都北京に隣接する河北省では2021年に入り、省都の石家庄を中心に新型コロナウイルスが蔓延して感染者数千人を計上、3月上旬には中国本土の感染者数は9万人台に到達していた。首都から遠く離れた南方に位置する雲南省当局の感覚からすれば北方の感染者数千人に対し、現地数十人の感染者など微々たるものということであろうが、こうした危機意識の麻痺、慢心こそ現在の中国各地方、各階層に流れている真情ではなかろうか。

 こうした中、国務院は4月8日、人事異動を明らかにし、丁向陽・副秘書長の免職を行った。一見、何でもない人事異動に見えるが昨年、新型コロナウイルスが猖獗を極めた湖北省武漢市に5月から派遣され、現地の大規模PCR検査を仕切った責任者が丁副秘書長だったのである。北京からは1月末、「女傑」孫春蘭・副総理をトップとする中央指導組が派遣されていたが4月末に撤退し、引き続き丁副秘書長をトップとする、より実務的な調整組が派遣されていたのだ。今回の異動の理由や行く先は明らかでないが、論功行賞からすれば「栄転」が順当であろうが発表はない。また、当の武漢市では昨年2月、トップである馬国強が更迭され(後任は王忠林)本年1月には周先旺市長の交代(同市政協幹部に就任、後任は程用文・元副市長)も行われており、地方と中央で疫病対策に従事していた責任者が異動させられたと言え、今後もこうした人事傾向があるのか注目される。

 最後に2月23日付の拙稿「華国鋒生誕100周年座談会が意味するもの」では言及できなかった論点に触れたい。本年7月1日の中国共産党創設100周年に関連して中国の党・政府・軍は現在、大規模な祝賀キャンペーンを行っている。実は、その直前の6月末、中国共産党は「十年の災厄」とされる文化大革命を否定し、毛沢東主席の誤りを認めた「建国以来党の若干の歴史問題に関する決議」(歴史決議、第11期中央委員会第6回総会<第11期6中総会>採択)40周年を迎えるのである。この40年間、鄧小平の後を継いだ江沢民、胡錦涛の両総書記は「歴史決議」に触れず、新たな決議策定にも着手しなかった。しかし、現行の習近平総書記は、党創設100周年を契機に新たな「歴史決議」を準備しているのであろうか。たとえ7月には間に合わなくても、年内に開催が予定されている第19期中央委員会第6回総会(第19期6中総会)で何らかの言及、新決議策定を打ち出すのか注目される。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム