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2021-05-27 20:21

バイデン政権下の米中通商協議始動か

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 ここ最近、中国内政を重点的に扱ってきた小生であったが、そろそろ米中関係について観察しようかと思っていたところ、5月27日午前、中国商務部の発表、これを全面的に引用した新華社は「劉鶴副総理が、米国のタイ通商代表部(USTR)代表と電話会談を行った」とし、「米中双方は、平等かつ相互尊重の態度に基づき、率直かつ事務的、建設的な交流を行い、二国間貿易の発展は非常に重要であることを認め、共に関心のある問題について意見を交換し、意思疎通を継続することで合意した」と報じた。実は、同会談の2週間前、中国が米国との通商交渉担当トップを劉鶴副総理から交代させ、後任には劉副総理よりも若い胡春華副総理(ただし米中関係に関わった経験はほとんど無し)を起用するとの観測報道が流れ、中国商務部が「報道は事実でない」と否定する事象が発生していた(13日付ロイター通信)のだ。以下、劉副総理の最近の動向等についてみてみよう。

 2020年1月の第1段階通商合意以降、「COVIDー19」をめぐって深刻な対立関係に陥った米中両国は5月、8月と米中閣僚級会合を継続してきた。すなわち米中経済対話の中国側リーダーを務める劉副総理は、トランプ政権下のライトハイザー通商代表部(USTR)代表・ムニューシン財務長官(いずれも当時)との電話会談を重ね、マクロ経済や公衆衛生事業の協力強化や、今後の意思疎通維持で合意していたのである。しかし、11月の大統領選挙における再選を目指したトランプ政権は対中通商交渉を凍結し、米中通商合意の破棄さえ主張したのである。結果的にトランプは選挙に敗れ、バイデン新政権の誕生となった。米中両国が共に経済・貿易担当閣僚を交代させ、貿易協議の仕切り直しを図った可能性は否定できないが、今回の劉鶴・タイ電話会談は、従来の枠組みを当面維持するとの意思表明と言える。

 こうした流れを裏打ちするように中国商務部は5月27日午後、「米農業省のデータによると中国は5月7日以降、米国からのトウモロコシ購入を加速しているが、その意図は何か」との質問に対し、「米中第1段階通商合意は中国、米国に有利であり世界全体にも有利である」と答え「米中双方は共に努力し、雰囲気と条件を作って合意履行を推進すべきである」と明言したのである。このように習近平の経済ブレーンとされる劉鶴副総理の「更迭」は見送られ、首の皮一枚繋がったというのは言い過ぎであろうか。

 他方、上記電話会談に先立つ5月19日、中国の馬暁偉国家衛生健康委員会主任は、米国のベセラ厚生長官と電話会談を行い、ベセラ長官の就任(前任はアザー)に祝意を表し、米中間の衛生・健康分野における交流と協力について意見交換を行っていたのである。そして2日後の21日には驚くなかれ、米国のベセラ厚生長官は、台湾の陳時中衛生福利部長とも電話会談を行い、再燃した「COVID-19」への対処に苦慮する陳部長は米国に対しワクチン提供を要請したことから考えると、熾烈を極めるとされる「米中新冷戦」の実態とは一体何なのかよく見極める必要があろう。
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