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2021-06-02 23:13

(連載1)拿捕事案から考える「領海3カイリ」の議論

緒方 林太郎 元衆議院議員
 宗谷海峡で日本漁船「第172栄寶丸」がロシアの国境警備局に拿捕されました。非常に残念な事です。早期の解決を望みます。日本とロシアの間には漁業協定が3つあります。
Ⅰ サンマ、イカ、スケトウダラ等を対象とした相互入漁に関する「日ソ地先沖合漁業協定」
Ⅱ ロシア系サケ・マス(ロシアの河川を母川とするサケ・マス)の我が国漁船による漁獲に関する「日ソ漁業協力協定」
Ⅲ 北方四島の周辺12海里内での我が国漁船の操業に関する「北方四島周辺水域操業枠組協定」
今回第172栄寶丸の操業はこの3つには当てはまりません。なので、ロシア領内で操業していたら国境警備局に拿捕されるおそれがあります。日本側発表では、第172栄寶丸は日ロ中間線の日本側で操業していたという事ですので、それを信じたいと思います。ところで、この件に関し、宗谷海峡の法的ステータスが結構関連しているように思います。これは私がずっと問題意識を持っている事です。まず、海の憲法ともいわれる国連海洋法条約では領海は12カイリとなっています。そして、領海がぶつかる所(24カイリ以下)では中間線で仕切る事になっています。日本もこのルールに従って、領海及び接続水域に関する法律で領海を定めています。
 
【領海及び接続水域に関する法律】
(領海の範囲)
第一条 我が国の領海は、基線からその外側十二海里の線(その線が基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、中間線(我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線があるときは、その線)とする。)までの海域とする。
(略)
 
 しかし、日本の領海の内、5ヶ所だけ領海の主張を3カイリに留めている場所があります。
 
【領海及び接続水域に関する法律】
附則
(略)
(特定海域に係る領海の範囲)
2 当分の間、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡(これらの海域にそれぞれ隣接し、かつ、船舶が通常航行する経路からみてこれらの海域とそれぞれ一体をなすと認められる海域を含む。以下「特定海域」という。)については、第一条の規定は適用せず、特定海域に係る領海は、それぞれ、基線からその外側三海里の線及びこれと接続して引かれる線までの海域とする。
 
 簡単に言うと、上記5海峡については「公海」部分を作っているという事です。公海ですから、そこには日本の主権は及びません。なので、例えば、津軽海峡のど真ん中で中国軍艦が停泊して、日本についての情報収集活動をするのは自由です(過去に中国艦船が津軽海峡をウロウロした事があります)。そして、この仕組みが最も歪な形で現れるのが宗谷海峡です。5海峡の内、対面に外国があるのは、稚内―サハリン間の宗谷海峡と対馬-韓国間の対馬海峡西水道です。対馬海峡西水道については、日本同様、韓国も領海の主張を3カイリに留めています。一方、宗谷海峡は違います。ロシアは中間線まで領海を主張し、日本だけが領海の主張を3カイリとしています。つまり、宗谷海峡で公海部分となっているのは、日本が中間線まで主張すれば埋まってしまう場所だけです。もう少し具体的に書きたいと思います。宗谷海峡は最も狭い場所で約42kmです。なので、日本(稚内)とロシア(サハリン)双方から12カイリ(約22.2km)を主張すれば、24カイリ(約44.4km)に満たないため中間線で領海を分け合う事になります。そして、ロシアは中間線まで領海を主張する一方、日本は主張を3カイリに留めています。結果として、稚内からサハリンに進んでいくと、①3カイリまでは領海、②3カイリから中間線までは公海、③中間線から向こうはロシアの領海、という事になります。②に当たる海峡の幅は、一番狭い場所で概ね15kmくらいでしょう。(つつく)
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