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2007-08-07 12:13

地域統合の遅れ―「日・ASEAN対話」に出席して―

木下博生  (財)日米平和・文化交流協会理事
 7月19日に東京で開催されたグローバル・フォーラム主催の第6回「日・ASEAN対話」の基調講演において、ASEAN事務局のラッチャビー事務次長が「ASEANは1967年に設立され、来る8月8日に40周年を迎える。」と述べたとき、私は、その設立の年に、ベルギーのブリュッセルに駐在していたことを思い出した。ブリュッセルには、現在、EU(欧州連合)の本部があるが、1957年にローマ条約が締結され、翌年、フランス、西ドイツ、イタリー、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの6カ国でEEC(欧州経済共同体)が発足して以降、50年近く、ずっと本部が置かれている。

 EEC発足当初、フランスのドゴール大統領がイギリスの加盟に「ノン」と言うなど、欧州の統合は、常に順調な歩みを続けたわけではなかった。私が駐在していた60年代半ばには、EECは、欧州石炭鉄鋼共同体および欧州原子力共同体と合併して、EC(欧州共同体)となった。73年に英国など一部のEFTA諸国が加盟して以降、加盟国が増えはじめ、冷戦後の93年には、マーストレヒト条約により政治・経済をカバーするEUとなった。その後、旧東欧諸国が続々と加わり、今や27カ国をメンバーとする一大統合体となっている。

 これに較べると、10年遅れでスタートしたにしては、ASEANの統合への歩みは遅い。勿論、政治・経済の協力組織に過ぎないという性格の違いもあるし、設立当初から、ベトナム戦争やカンボディア内戦など、近隣地域での紛争が絶えないという事情もあった。しかし今や世界の中で最も経済成長が著しいアジア地域にあって、しかもその中心部に位置するASEANであるのに、EUと同じように完全な統合体を目指しているのだ、と胸を張れるような状況にはまだなっていない。先日の第6回「日・ASEAN対話」におけるASEAN側の出席者の発言からもそれが窺われた。加えて、日本や韓国など近隣国の姿勢も、EPAやFTAを提案して交渉しようとする程度であって、腰が引けていると言わざるを得ない。最近、中国の態度がやや積極的になってはきたが、統合された欧州にはまだまだ大きく水をあけられ、5~10周遅れぐらいになっている状況にある。

 私は80年代後半から、東アジア自由貿易地域を創るべきべきだと主張してきた(88年3月「時事解説」)し、ユーロと同じように「アジア」という共通通貨の導入を目指したらよいとも提案した(99年1月「時事解説」)。日本がいま進むべき道は、東アジアで自由貿易地域を創り、それを関税同盟に発展させ、最終的には共通通貨「アジア」を持つまでに統合を進めることである。それを実現するには、通過地点としてASEANに加盟してもよいのではないだろうか。欧州との遅れを取り戻すために必要なことは、国のリーダーであるべき政治家が、大きなヴィジョンを持って決断を下すことである。これは、日本だけではなく、ASEAN各国の政治家についても言える。EEC創設にあたって、フランスのジャン・モネやロベール・シューマンらが示した先見性に見習うべきであろう。日本の農業を守らなければならないと言ったと思えば、新潟の「こしひかり」が中国に輸出されて、日本の何倍もの値段で消費者に売られたと喜ぶような態度は、政治家がとるべきことではなく、担当の役人や当事者に任せればよいことである。もっと政治家らしく振舞ってほしい。
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