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2021-11-03 20:53

(連載1)戦争の放棄は真の平和主義か

倉西 雅子 政治学者
 戦後直後の1946年11月3日に日本国憲法が公布されて以来、日本国内では護憲派、特に憲法9条を信奉する消極的平和主義者が平和運動を行ってきました。これらの平和主義者は、’戦争は要らない、軍隊も要らない’と訴え、憲法第9条の条文を無条件放棄論として解釈して、非武装を実現しようと訴えてきました。その熱意には驚かされるばかりなのですが、よく考えても見ますと、平和を実現するための努力の方向性が間違っているように思えるのです。
 
 戦争そのものを担当する機関、即ち、軍隊の放棄は一見しますと平和に貢献しているように見えます。戦争やそれを遂行する手段が消滅すれば、平和を害する戦争そのものが成立しないため、自ずと平和が訪れるようにも思えるからです。しかしながら、現実主義の立場からパワー・バランスというものに注目しますと、一国による戦争や戦力の放棄による力の空白の出現は、むしろ、均衡状態がもたらしていた平和を崩してしまうリスクがあります。仮に、普仏戦争のあとドイツとの緊張関係を高めたフランスが軍隊を放棄していたら第一次世界大戦は起きなかったでしょうか。いいえ、世界情勢を鑑みれば経緯は違っても惨禍は免れなかったでしょう。
 
 すなわち、拡張主義的な国が近隣に存在していますと、同空白を埋めるかのように軍事的な侵害を受ける可能性が高まるのです。これは勢力均衡政策の根拠になる主張ですが、日本国の平和は、憲法第9条ではなく、自衛隊、並びに、日米同盟のよってもたらされたとする説は、まさにこのパワー・バランス論に基づいています。
 
 このように戦争放棄論とは、その実、戦争の誘発性を内在させており、一つ間違えますと、戦争放棄論者は侵略者に利用されかねない立場にあります。このため、消極的平和主義の人々は、たとえ平和の実現という崇高な理想を掲げていても、一般の人々からは警戒される存在であったと言えましょう。そして、こうした戦争放棄と平和との間の危うい関係に加えて、戦争放棄論者には、深刻な論理矛盾を抱えているように思えます。(つづく)
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