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2007-08-20 18:24

食は母にあり

岩國哲人  衆議院議員
 自民党・公明党によって平成17年6月10日に制定された「食育基本法」は、日本人の「食」のあり方を、国家権力が関与して政治・経済に都合よく方向づけるために、国民全体を対象とする教育に名を借りて、国民の「胃袋」どころか、「心」の領域にまで支配を及ぼそうとするものです。地方分権の時代を唱えながら、中央政府が県や市町村にあれこれと口ばしを入れて努力を義務づける条文なども、「小さな親切、大きなお世話」ではないでしょうか。食生活を教育するために基本法を策定してまで官の権力を介入させようとする試みは、歴史上どんな権力者も、例えば食文化の歴史の二大本流であるイタリアのシーザーもネロもローマ法王も、もう一つの食文化の本流、中国の始皇帝にも毛沢東にも見られない、世界の法制史で画期的なものではないでしょうか。

 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、どこの国を見ても、「食」生活を対象とするガイドラインはあっても法律まで作っている国はありません。職場を広げ、職業を青少年に与えることこそが青少年に希望を与え、平和な社会につながり、安心して生活をし、いい家庭をつくり、いいお母さんが増え、いいお母さんが子供の心身を育てるということを世界の政治家は知っているからでしょう。それは日本の伝統でもありましたし、世界の常識でもあります。 私は海外にも長く住んで、多くの国にも旅をして、いろいろな国の食べ方、飲み方、そしてその味にも接してきました。世界中の食べ物が私の体の中を流れていきました。二人の娘を日本、イギリス、フランス、アメリカの四つの国で育てて、学校給食の実態にも接してきた経緯があります。二人の娘が学んだパリの私立小学校では幼時から二カ国語で教え、毎週水曜日は森の中の教室で授業が行われ、アラン・ドロンなど芸能界、外交官、銀行員の子弟が学んでいました。給食は行列に何回でも並べるし、先生はワインを飲んでいました。先生は大人だからワインを飲む、それをごく当たり前のこととして受け入れているのがフランス流「食育」でした。

 また、日本農業の原点といわれる出雲市の市長を務めて、地方の農業の抱える問題にも対応してきました。典型的な大消費地である東京、横浜、ニューヨーク、ロンドン、パリでは、テーブルの上の食生活や大都市の胃袋ともいわれるマーケットにも接してきました。そのような経験を踏まえて、私は2005年4月6日の内閣委員会で質問に立ち、私の持論を披歴し、提案者の考えを質しました。

 近代西洋文化の発祥の地と言えば、まずイタリアですが、「アモーレ、カンターレ、マンジャーレ」、愛して、歌って、食べて、この三つがイタリア人の情熱のはけ口、庶民の自由な楽しみを代表しています。「愛と歌と食」だけは権力や政治や法律で縛らないでほしい、それが大衆の願いであり、世界の常識。法律の好きなドイツでも、国民を動員することが好きなヒトラーも、食に介入することはありませんでした。
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