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2022-01-21 20:10

(連載1)続・現代に緊急事態条項は必要か

倉西 雅子 政治学者
 防衛戦争といった国家存亡の危機にあっては、緊急事態の発生を根拠とした有事型の体制への転換が必要とされるケースはないわけではありません。この観点からすれば、憲法に緊急事態条項を設けるべし、とする主張にも合理的な根拠があります。しかしながら、緊急事態条項については、もう一つ、考えてみるべき問題があります。それは、同条項の適用対象は、必ずしも防衛戦争とは限らない、という問題です。
 
 今般、憲法改正に際して緊急事態条項の導入が論点として急浮上してきた背景には、コロナ対策としてのロックダウン等の強制措置がありました。感染症を終息させるためには、行動や移動の自由を含め、個々人の基本的な自由や権利を制限する必要性が主張されたからです。感染症のみならず、大規模な地震や水害といった自然災害、並びに、人災においても私権制限を要するケースも想定され、緊急事態条項は、こうした’準有事’のケースに直面した際にも、政府が事態収拾のために速やかに行動し、組織的に対応する切り札とも目されているのです。かくして、緊急事態条項は、防衛戦争のみならず、他の国家的危機に対しても拡大適用される可能性が論じられるに至ったのですが、ここで一つ盲点となるのが、’体制の維持’を目的として緊急事態宣言、あるいは、非常事態宣言が発せられる可能性です。歴史を振り返りますと、国内にあって内乱や反乱、あるいは、革命といった事態が発生した場合、体制側となる政府が、これらの宣言を行うことがあるからです。
 
 有事型が常態となっている全体主義国家にあっては、日常にあって私権は常に制限されていますので、とりたてて緊急事態や非常事態を宣言する必要はないのでしょうが、特に問題となるのは、民主主義体制の国家です。民主主義国家では、憲法において国民に参政権、並びに、政治的自由が保障されているため、暴力、並びに、選挙等の公の制度外の手段による国家転覆や政権奪取は、本来、想定されはいません。しかしながら、幾つかの場合には、民主主義国家にあっても、国内秩序が乱れる’緊急事態’や’非常事態’が発生する可能性はあります。こうした事態は、およそ二つのケースに分かれます。
 
 第1のケースは、国内にあって、暴力を以って民主的政体を別の体制に転換させようとする集団が現れ、実際に、その計画を実行に移した場合です。このケースでは、政府は、民主的国家体制を維持するために、武装した反体制組織を鎮圧する必要に迫られます。(つづく)
 
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