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2007-08-30 15:07

硬軟を折り込んだメルケル首相の中国訪問から学ぶもの

須藤繁  シンクタンク研究員
 メルケル独首相は、産業界代表25名を帯同して、訪日に先立ち、26日深夜から28日中国を訪問した。中独両国の経済関係はこの数年大きく拡大しているが、今次の訪問は、経済関係のみを目的とするものではなかった。両国の間には、知的財産権の侵害、人権問題の他、中国のハッカーがドイツ政府のコンピュータからデータを不正に取り出そうとした疑惑も発生していたからである。

 温家宝首相は、27日ほぼ終日をメルケル首相の接遇に費やし、中でも北京市内の公園に繰り出す等、穏やかなもてなし振りを演出した。記者会見で温首相は、「ハッカーの行為に対しては、ドイツ政府と協力して厳しく取り締まる意向である」ことを明らかにした。それに対して、メルケル首相は、記者会見において、中国企業の知的所有権の侵害問題に触れ、「世界がグローバル化していく中では、相互に共通のルールを守ることによってのみ、共に健全に発展して行くことができる」と応じた。また胡錦濤国家主席との会談では、環境・省エネ技術の供与を通じて地球温暖化対策で協力することに合意したが、その際、「2008年北京オリンピックは、人権問題の改善をアピールする上で、中国が逃してはいけない機会である」との見解を改めて強調したことが注目された。

 第一日目の報道振りは、概して友好的な雰囲気の内で行われたように思う。その中で、27日ドイツ側の報道は、「中国側はメルケル首相の新しい中独関係の提唱に多少困惑したようにみえるが、会議は概してオープンでリラックスした環境下で行われた。忘れてならないのは、中国が自ら外に向けて開かれた姿勢を見せようとしていることである。中独関係の拡大を期待する声は両国に大きいが、他方、中国は国内的には報道規制を強化し、反対派グループを拘束しているのも事実である」としていた。

 28日、メルケル首相は、報道規制・人権問題等を自ら確認するかのように、中国政府に批判的な報道関係者との会談を希望、同会談は中国政府に黙認される形で開催された。ZDF(ドイツ第2テレビ)報道によれば、会談は社会科学アカデミーの場で実現した。同アカデミーでのやりとりで、メルケル首相は、人権問題に触れ、「北京オリンピックを目前に控え、人権問題が改善されれば、世界は中国に対してこれまでとは異なった見方をすることになる。中国の報道と言論の自由のありかたは世界中で注目されている」とコメントした。中国当局の反応は、29日の時点では必ずしも明らかでないが、こうしたドイツの硬軟両様のアプローチに、中国当局が柔軟に対応していくことは同国の国際社会における地位の向上をもたらすことになるように思う。
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