国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2022-03-11 23:25

「核共有」を言い出した安倍元首相の無責任

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 因幡の白兎は、隠岐の島に渡りたいが泳ぎは不得手、そこで一計を案じ、海中をうろうろしている「ワニ(鮫サメ)」らを利用して海を渡ろうと考えた。「お前たちの一族の数とわしらの数のどちらが多いか勘定してあげよう」と誘うと、算数の苦手なワニたちは言われた通り集まってきたので、兎が渡りたい気多崎(けたのさき)まで並ばせて、1頭、2頭と数えていった。島を直前にしてしめたと思った兎、「お前たちは騙されたのだ!」と叫んでしまった。これが少々早すぎて無残にも皮を剥かれて赤裸にされてしまった。

 安倍晋三元首相は27日のフジテレビ番組で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有」政策について日本でも議論すべきだとの考えを示し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と述べた。こういう考えが急に昨日今日に突然脳裏に湧いて出てきたのならいざ知らず、以前から考えていたのならなぜ今まで黙っていたのか。在任中にこんなことを語れば国民から強烈な反発を受け、政権継続は不可能となっていたことであろう。典型的インモラルで「因幡の白兎」の行状だ。

 チャンネルが「8」のフジテレビでの発言というから、それなりに番組制作者との間にア・ウンの呼吸あっての発言と相成ったもので、決して単純な失言ではなかろう。「核廃絶」は、近頃大阪くんだりで理解不能な主張をする者たちを除けば、政治信条・支持政党の違いを越えて唯一この国の民がともに悲願とし、戦後80年これを国是と思ってきたはず。安倍元首相の発言を何と聞けばよいのか。

 非核三原則「作らず・持たず・持ち込ませず」は氏の叔父佐藤栄作元首相に起源をもつ。また、ロシアが核攻撃をチラつかせるこの異常事態にあって現首相が被爆地広島選出の岸田文雄氏であったのは意味深いことだ。彼にとって、広島にとってレジティマシーとも言うべき政策であり「核廃絶」は岸田内閣の基盤であろう。また、これが外交問題であることから、次期衆院選で真っ向勝負が予想される外務大臣林芳正氏に対する安倍氏の毒薬発言でもあろうか。いずれにせよ元首相として無責任の最たる物言いであり、筆者はまさに因幡の白兎の言を聞いた「ワニ」の心持ちである。そして、大国主命に今度ばかりは「あわれがり」などしないでもらいたいと心から強く強く思ったのである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム