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2022-04-13 16:50

「習主席、内憂外患こもごも至る時期に物見遊山の海南省視察ですか」

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 4月10日、週末8日の北京冬季五輪・パラリンピック総括表彰大会に出席した習近平国家主席は、南方のリゾート地とされる海南省三亜入りした。英国ロイター通信の報道で取り上げられたように、三亜所在の種子実験室を視察した習主席は「自分の手で中国の種子を押さえれば、中国の飯茶碗(食い扶持)は維持出来るし、食糧安保も実現出来る」と語った。11日には五指山の村落を訪れ、現地の住民と交流した習主席は「全ての精力は、民衆が良い生活を過ごせることに傾注する」と強調し、翌12日には洋浦経済開発区を視察した。今後は、省内の海軍基地(潜水艦部隊)も視察するのであろうが、一連の習近平の動静をみた小生はこの肝要な時機、タイトルにあるように中国トップリーダーの束の間の息抜き、「物見遊山」の地方視察にしか思えなかった。その理由を、以下述べていこう。
 前回、中国の「内憂外患」対応に関する拙稿がeー論壇に掲載された3月21日、中国では広西昆明を発った東方航空旅客機が墜落して乗客乗員132人全員が死亡するという重大事故が発生していた。習近平国家主席と李克強総理の重要指示に基づき、翌22日に国務院安全生産委員会の劉鶴主任(副総理)と王勇副主任(国務委員)は広西の墜落現場に入り、重大事故の事後処理(生存者捜索と墜落原因解明等)を指示した。ここまでの当局の手際は良かったが、「国家応急処置指揮部」が立ち上がり、その責任者(総指揮)に民航局長が就任したという報道に接し、小生はまた「中国版FEMA」応急管理部への「冷遇」軽視に気付いたのである。国務院安全生産員会の副主任には趙克志公安部長(国務委員)とともに、黄明応急管理部長も名を連ねており、同委員会の恒常業務を担当する弁公室主任は黄明部長が兼務しているのだ。しかし、黄明部長の直接的な関与は何ら見えず、29日には李克強総理が主宰する国務院常務会議が開かれ「321」事案のような重大・特大安全事故の防止が強調された。さらに31日、中国共産党は政治局常務委員会会議を開催し、「321」事案に関する報告を聴取して今後の対策を配置した。2週間前の17日、COVIDー19対策に関する常務委員会会議を開いたばかりの習近平指導部が間髪入れず、このようなハイレベル会議を開いたのは異例のことであり、防疫活動とともに交通・建築・鉱山等における重大事故発生防止に懸念を抱いてることが明らかとなった。
 4月に入り、全国安全生産TV電話会議が北京で開かれ、事故発生に関する地方の党委員会・政府、生産・企業部門等の指導者、責任者に対する厳格な問責を規定した「十五条措置」という対策が打ち出された。同会議には国務院安全生産委員会の首長である劉鶴、王勇、趙克志が出席したが、やはり黄明の名前は無かったことから将来、「応急管理部」の再編・解体も予想されるところである。他方、「国家応急処置」が真に必要と思われる中国本土のCOVID-19の感染状況は改善しておらず、むしろ悪化しているのが現状である。4月12日現在、中国の上海市・吉林省・広東省など19省・市・自治区に感染者1,500人+無症状感染者26,420人=27,920人が確認され、通算の感染者数は16万人台に到達している。特に「商都」上海市の状況が深刻であり、感染者1,189人+無症状感染者25,141人=26,330人であり全体の9割以上を占めている。衛生工作を主管する孫春蘭副総理は4月2日、吉林省から上海市に入り、現地指導を継続中であるが改善はみられない。また前日の11日、国家衛生健康委員会のHPは、それまで全国の感染状況を発生都市別に詳細に公表していた方式を改め、総数のみの公表として細部は省・市・自治区の衛生健康委員会のHPを確認されたしとの文言を出して中央の衛生部門は「匙を投げた」感がある。
 本年に入り習近平国家主席の視察動向は、北京冬季五輪の準備状況確認の北京市(1月)、旧正月祝賀で訪れた山西省(2月)といった首都近辺に限定されていた。小生も、次の視察はどこなのか注目していたが、「疾病の感染状況が落ち着いた東北地方の吉林省、あるいは逆に感染が猖獗を極める上海市への陣中見舞い・激励ではないか」と予想していた。特に上海市のトップを務める李強党委員会書記(政治局委員)は、習近平の「浙江閥」の一員であり、今後の中央政界入りが取り沙汰された要人であるが、今回の現地防疫活動のハンドリング如何では「更迭」失脚の可能性も出て来た。だからこそ側近の劉鶴副総理らを引き連れた、暫しの「息抜き」南方視察なのか。口頭では「人民第一、安全重視」を強調しながら、実際は弛緩した状況にある習近平体制下では「内憂」は継続されると思われる。
 最後に、2020年2月以来、拙稿の投稿・掲載を許可して頂いた伊藤憲一・日本国際フォーラム会長の訃報に接して驚愕しています。思えば伊藤会長の『国家と戦略』に接して戦略研究・情報分析を志した小生であり、真に残念でなりません。心からご冥福をお祈りいたします、合掌。
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