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2022-04-23 16:53

中国の「内憂外患」序論

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 4月22日現在、中国の「内憂」COVID-19感染状況は依然として深刻である。中国の上海市・吉林省・黒竜江省など17省・市に感染者2,971人+無症状感染者21,355人=24,326人の本土感染者が確認されている。2020年、湖北省武漢市で発生して以来通算の感染者数は19.9万人に達しており、昨年末に10万人台を計上して4か月間内の20万人台到達が目前に迫っている。中でも首都北京市に次ぐナンバー2の都市とされる上海市の状況が全く好転していない。上海市では感染者2,736人+無症状感染者20,634人=23,370人と、中国本土の感染者95%以上を占めており、4月17日以降6日連続で死者48人が発生している(全体の死者数は4,686人計上)。そして問題は、こうした感染状況の継続とともに、深刻化している「経済の動脈」とされる物流の停滞である。4月18日、全国物流保障・産業網サプライチェーン安定化TV電話会議が開かれ、習近平国家主席の経済ブレーンである劉鶴副総理は「民生は末端を押さえ、貨物運輸をうまく通し、産業を循環させよ」と強調した。「商都」上海市のロックダウン(都市封鎖)等によって、中国全土で必要な物資の買い占めや不法転売が横行しているのだ。特に自動車部品、集積回路、農業用物資、食料品、医薬関係物資が欠乏・不足している模様であり、将来的に中国経済への影響が懸念されよう。

 次に「外患」となっているロシア軍のウクライナ侵攻への対処である。2月24日の侵攻以来、間もなく2か月が経過しようとしているが事態は全く進展していない。そんな中、習近平国家主席は4月21日、海南省で開かれた「ボアオ・アジアフォーラム」(BAF)年次総会で基調演説(オンライン)し、「6つの堅持」にまとめた「グローバルな安全保障」提案を行った。それらは①共同・総合・協力・持続発展可能な安全保障観堅持、②各国の領土主権・領土保全・他国の内政不干渉堅持、③国連憲章の目的と原則の堅持、④各国の合理的な安全保障への関心の堅持、⑤対話と協議による平和的な方式での国家間の対立・紛争解決を堅持、⑥伝統領域と非伝統領域の安全保障のバランスのとれた維持の堅持である。邦字紙でも報道された「一方的な制裁の濫用(乱用)に反対する」という主張は⑤の部分で主張され、その前後には「危機の平和的な解決に有利な全ての努力を支持する」、「ダブルスタンダードをとってはならない」、「(一方的な制裁の濫用と)ロングアームコントロール(中国語:長肘管轄 域外への過剰干渉の意か)に反対する」という言辞がみられた。これら主張に接して小生は「習主席、全くよく言うよ」という感想を抱いた。ウクライナとロシアの仲介行動などに全く乗り出さず「火中の栗を拾わない」、模様眺めの姿勢を崩さない中国の姿勢に違和感を持っているからだ。そして中国は、あらゆる分野での対ロ交流も継続している。

 4月15日、中国の序列ナンバー3に当たる栗戦書全人代常務委員会委員長は、ロシアのマトビエンコ連邦委員会主席(議長)とオンライン会談を行い、いわゆる「議会交流」立法機構間の交流を行った。18日には楽玉成外交部副部長(外務次官)は、ロシアのデニソフ駐中国大使と会見し、意見交換を行った。会見の席上、楽副部長は「国際情勢が如何に変化しようとも中国は今後、ロシアとの戦略的な協力を強化し、ウインウインを実現し、双方の共同利益を共に維持する」と主張していることから、中ロ関係が盤石であることを内外に喧伝したのである。他方、現下のウクライナ情勢によって、やや影の薄れた米中関係の現状である。4月20日、中国の魏鳳和国防部長(国務委員、中央軍事委員会委員)は、米国のオースティン国防長官と電話協議を行った。米中国防当局トップによる協議は、昨年1月のバイデン米政権発足以来初めて行われ、米側はロシアのウクライナ侵攻をめぐり、中国がロシアへの軍事支援に踏み切ることを警戒したのに対し、魏国防部長は「米国は海上における軍事挑発を停止し、ウクライナ問題を利用して中国の面子をつぶして濡れ衣を着せたり、脅したり圧力をかけてはならない」と釘を刺した。

 こうした米中防衛協議の存在を報じた22日の朝日新聞国際面は「ウクライナ巡り米中応酬」という過激な見出しを付けたが、小生は昨年10月20日付の拙稿「現代中国の盲点八論:米中対立の幻相」の内容を思い出した。2021年8月の米中国防担当者レベルの協議に続き、9月には第16回米中国防機構工作会議が開かれ「米中両軍関係は多くの困難と挑戦に直面しているが、常に意思疎通は保持している」という中国国防部スポークスマンの発言があったからだ。米中両国、両軍としては当面、ウクライナ情勢に「忙殺」されるため、「意思疎通」のルートを維持し、その格上げの中で暫定的な「手打ち」(休戦状態)を目指したのではないか。いずれにせよ中国の「内憂外患」が消えることはなく、その行方には注目を要する。
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