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2007-09-27 19:50

連載投稿(1)トルコとクルド――もうひとつのイラク問題

山内昌之  東京大学教授
 現在のトルコとアラブがからむ最大の懸案は、クルド問題である。トルコのアナトリア東南部を舞台にしたクルディスタン労働者党(PKK)による分離独立運動は、1984年からトルコ政府との事実上の戦争状態に入っている。この四半世紀で双方から4万人の死者を出しているが、99年のアブドラ・オジャラン党首の逮捕以来やや小康状態を保っている。それは、もはやPKKは公には独立を求めていないからだ。

 とはいえ、トルコ政府は、オジャランの釈放と捕虜全員の大赦要求を「テロリストに屈せず」として認めようとしない。この問題と複雑にからみあっているのが、イラクのクルド人自治区の存在である。トルコは、PKKがその地をテロ活動のサンクチュアリ(聖域)としていると考えるからだ。

 ここで重要なのは、イラク戦争とトルコの不参戦の意味である。イラクのクルド人は、これまでサッダーム・フセインへの抵抗を通して、豊かな実戦と政治の経験を積んできた。また、自治区の成立以来、独立をめざす組織の運営にもとみに習熟してきており、一部の国連加盟国よりもはるかに強力な事実上の「国家」としての内実を整備しつつある。この点で、トルコがイラク戦争に参加せず、「北部戦線」の形成にも関与しなかったことは、クルド人の自治強化とアメリカの立場の弱体化をもたらす複雑な綾となった。もしトルコの参加があれば、イラク戦争後の内戦的状況で、最も訓練され装備の充実した中東唯一の同盟国であり、NATO加盟国でもある軍隊をあてにできたはずだからだ。

 その場合、現在のイラク情勢はもう少し異なるものになっていたかもしれない。その代わりにアメリカは、民主主義と人権を打ち出す国家として、トルコ人によるクルド人の蹂躙という見たくもない光景に出会っていたかもしれない。アメリカは、トルコによるキルクークやモスルの油田に対する野心を見てとって、アフガニスタンの「北部同盟」のような形でクルド人を使うことに満足せざるをえなかったのだ。(つづく)
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