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2023-03-29 22:48

国家の失政がインフレ、景気後退、そして戦争を引き起こす 失政のツケは若い世代に

大井 幸子 国際金融アナリスト
 文豪ヘミングウェイの言葉はそのままバイデン政権の失政に当てはまります。少し意訳しますと、「mismanaged nation 運営を誤った国家ではまずインフレが起こる、次に戦争が起こる。インフレと戦争は政権とそれを支える既得権益集団の一時的な儲けとなるが、国家の繁栄を永遠に損ねる。ご都合主義の彼らにとってインフレと戦争は隠れ蓑なのだ」。ヘミングウェイ自身スペイン内戦に身を投じ、フランコ将軍率いるファシストと戦い、「武器よさらば」や「誰がために鐘は鳴る」を著しました。ルーズベルト政権が第2次世界大戦に米国を参戦させたことを一米国人としてどう感じたのだろうか。小説「誰がために鐘は鳴る」は17世紀のイングランドの詩人、ジョン・ダンの詩に寄せ、その内容通り、「ヨーロッパ大陸が戦争の波で押し流されていく、文明の破壊と人類の悲劇」がテーマになっていると思います。余談ですが、映画「誰がために鐘は鳴る」ではイングリット・バークマンの輝かく美しさが印象的でした(参考:ジョン・ダン「誰がために鐘は鳴る」詩文http://www.edit.ne.jp/~ham/yomoyama/donne.html)。
 
 実際、2021年年初来バイデン政権はルーズベルト政権の「大きな政府」の焼き直しのような失策を次々と実施してきました。経済面ではニューグリーンディールを提唱し、石油業界を圧迫したことで、原油価格高騰を招きました。次にインフラ投資で3兆ドル規模の財政赤字を膨らませました。ロックダウン明けのタイミングと重なり、「人為的なインフレ(コスト・プッシュ型インフレ)」が起こり、21年夏にはすでに多くのエコノミストがインフレを警告していたにも関わらず、米国中央銀行FRBが利上げを開始したのが22年3月です。バイデン政権は外交政策でも失策を重ねました。21年8月には米軍のアフガン撤退では一連の失敗を重ね、米国への協力者をタリバン政権の恐怖の中に取り残し、与野党の批判にさらされました(詳細はhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2021/08/09cd00228d8e7698.html)。加えて、イラン、そしてウクライナに関してもトランプ政権下では一触即発を抑止する和平工作が行われたにも関わらず、バイデン政権では戦争の火種を拡大させるかのような政策を取り続けて現在に至っています。
 
 米国は世界の覇権国であり、その失政は世界に大きなマイナス影響を与えます。今後、バイデン政権が世界にインフレと戦争を蔓延させないことを祈るばかりです。インフレについて言えば、FRBはインフレを抑制しようと昨年3月から猛烈な勢いで利上げを行なっています。政策金利の引き上げが実体経済に効いてくるにはタイムラグがあると言われ、通常、9-12ヶ月経って、実際の景気に翳りが見えてきます。バイデン政権のバラマキ政策のカンフル効果も薄れてきて、ちょうど今年第1四半期には明らかな景気後退の様相が見えてくるはずです。そして、FRBはなおもタカ派スタンスを崩さず、利上げを続けます。これ以上の利上げでGDPの7割を占める個人消費の行方がどうなるか。昨年年末頃から、個人貯蓄高が減り、クレジットカード(リボ払い)負債額が急激に増えています。インフレ率も金利も高止まり、一般世帯ではガソリン代、電気ガス代、食料品の高騰、そしてローン金利の支払いが倍増するなど可処分所得がどんどん減り続けています。個人消費が縮こまれば、景気後退が懸念され、多くの企業はすでに雇い止め、そして人員削減に動き始めます。そして、こうした影響は若い世代に暗い影を落とし始めています。
 
 ミレニアル世代(1981-1996年生まれ)の多くは、学生ローン(奨学金)を抱え、社会に出ても家賃の高騰などで自立が難しく、親との同居が増えています。そして、自分達は親の世代よりも豊かになれないという失望感から現状否定、「資本主義が悪い」という思想に染まりやすい。さらにZ世代(1996-2015年生まれ)は「大金持ちやVIPのライフスタイル」といったTik Tokの現実離れした映像に幻惑され、子供の頃から刹那的な投機に走ると同時に共産主義的な思想にかぶれやすい傾向があります。いずれにしても困窮化、格差拡大、そして社会的混乱が若い世代に広がるのを防ぐ必要があります。これまで民主主義国家では、政府が「国民の生命と財産を守る、その対価として国民は政府に税金を払う」という憲法という市民契約がありました。ところが、インフレと戦争を引き起こす政府は明らかに憲法に違反し、国民の財産を減らし、国民の生命を危険に晒すことになります。憲法違反が明確になるとき、米国では政権交代が起こるはずです。次の大統領選挙は2024年11月、あと1年半の間に事態がどこまで悪化するのかどうか、注視したいです。
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