国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2023-05-16 12:26

岸田首相「異次元の」少子化対策の財源問題

舛添 要一 国際政治学者
 岸田内閣の目玉政策である「異次元の」少子化対策については、財源の問題が焦点の一つである。国民は、負担増については拒否反応を示している。それもあってか、岸田首相は、財源としての消費税増税を封印した。そこで、どこに財源を求めるかという議論になる。「異次元」という以上は、皆が驚くような政策のはずである。具体的には、児童手当については、所得制限の撤廃、高校卒業までの支給延長、多子世帯への手当てなどを挙げている。また、大学授業料減免、給付型奨学金の対象拡大、育児休業の引き上げなど、多様な政策を提示している。これらの政策を実現するための費用は、5〜8兆円になるとされている。

 これを、消費税の増税で行おうとすると、税率を2〜3%上げる必要がある。しかし、この手は首相が封じたので、政府は社会保険料の上乗せで対応しようとしている。しかし、この方法にも問題がある。まず、目的外の支出である点である。たとえば、介護保険料を取り上げて考えてみると、これは介護が必要になったときのための備えである。少子化対策とは関係ない。しかも、40歳以上しか負担しないので、年齢によって不公平になる。あえて言えば、若い世代の負担が増えないので、その点は少しは少子化対策に貢献するかもしれない。年金保険料については、その逆で、高齢者(国民年金60歳以上、厚生年金は70歳以上)は保険料を納めないので、この保険料に上乗せすると、現役世代の負担が重くなる。その意味で、少子化対策を阻害する。

 医療保険は、高齢者も含めて負担しているので、保険料を上乗せしても、介護保険や年金のような世代間の不公平はない。さらに、社会保険料の半額は企業が負担するので、企業にとっては大きな負担となる。企業は、「子ども・子育て拠出金」を拠出しているが、これを増額する案も出ている。少子化対策という目的には適合するが、企業のみがの負担が増えるという不公平が生じる。財源として国債を発行するのも、将来世代にツケを先送りすることになり、批判が多い。増税すると国民が反発し、政権党は選挙で敗北する危険性が高まるので、なるべく税金には手をつけずに、社会保険料のほうを上げる方法で逃げようとするのである。今回の子育て対策の財源についても、この安易な方法を採用しようとしている。

 税金については、その使途を国民もマスコミも厳しく監視するが、社会保険料については、官僚任せで無駄遣いなどを指摘することも少ない。私が厚労大臣のときに、年金記録問題を始めとする社会保険庁の杜撰な取扱が問題になった。そこで、私は社会保険庁を解体し、日本年金機構を発足させた。日本は欧州諸国と同様に、高負担・高福祉という路線を選択しているが、少子化対策について、今回の岸田政権の社会保険料上乗せ策はあまり褒められたものではない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム