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2007-10-10 20:43

「デモクラシー無き資本主義」の驚異的高成長

木暮正義  元東洋大学教授
 1974年の『フリーダム・ハウス』認定の民主主義国家は42カ国、2004年の認定は89カ国に増えたが、07年の認定では90カ国に留まり、F.フクヤマの『歴史の終わり』に見る目眩くような民主化オプティミズムは後退し、アラブ、ユーラシア、サブ・サハラやラテン・アメリカなどに独裁制を含め、102カ国の権威主義の怪物が存続している。東アジアでも、06年9月の民主タイにおける軍事クーデターの勃発や、07年9月のミャンマー僧侶のデモ弾圧は、21世紀における権威主義の逆波の力を再認識させた。事実、東アジアには『フリーダム・ハウス』の“not free”と“partly free”に分類されるシンガポール、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、北朝鮮、中国などのように、一党独裁や軍事独裁も存続しており、民主化の波の停滞と権威主義への郷愁を現実のものとしている。

 云うまでもなくこの権威主義体制は、J.リンスの云う大土地所有志向の旧型の権威主義体制とは異なり、21世紀のネオリベ的グローバリゼーションの潮流に積極的に参入し政治参加を限定的に許容するハイブリッドの権威主義体制として、S.M.リップセット以来の民主化と経済発展の「タンデム仮説」に衝撃を与えている。この権威主義体制は、前述の『フリーダム・ハウス』の分類では独裁と民主のグレーゾーンで4~6の間に分類されるが、カーネギー国際平和財団のM.オッタウエイは、これを独裁と民主のハイブリッド体制――半権威主義体制――と規定し、その典型としてサダト大統領からムバラク大統領に至るエジプト政治における「イスラム同胞団」の抑圧と並んで、経済発展を前提に大統領選挙や議会選挙を巧妙に操作して政権変動を阻止する事例を示している。

 また、コネチカット大のD.C.カンタベリーは、第三世界の権威主義体制は、労働者を排除するネオリベ的民主化の中で「選択の無い選挙」を虚飾的に実施する「新権威主義体制」として、カザフスタン、モロッコ、ペルー、シンガポール、マレーシアなどを例示している。しかも注目すべき点は、この民主と独裁の共棲システムとして「新権威主義体制」が、ネオリベ的グローバリゼーションに適応し世界の生産力を主導している事実である。

 テルアビブ大学のA.ガットが指摘するように、非民主的なロシアと中国の目覚しい経済発展は、帝国日本とナチス・ドイツが第二次世界大戦に敗北して以来の権威主義的資本主義パワーの再来であり、この「新権威主義体制」が第二世界の発展モデルを提供していると主張している。ことに、「ショック療法」の痛手から回復したロシアが、石油と天然ガスを武器に強権的な半大統領制による経済発展を主導し、また天安門運動を抑圧した人民中国が、包括正当化した共産党の下に豊富で安価な労働力資源を武器として、「デモクラシー無き資本主義」(K.S.ツアイ)の驚異的高成長を示している事実である。この発展する豊かな「新権威主義体制」の出現こそ『歴史の終わり』の終わりの現象として、ニューヨーク大学のB.B.ド・メスキタの云う「成長が自由を産み出すルールの例外でなく、一般的に自由が生み出されない象徴的な事例」とさえ云うことができるのではなかろうか。
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