国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2023-08-23 13:47

移民受け入れ側の権利とは?

倉西 雅子 政治学者
 グローバリストが推進してきた移民政策は、権利保護の対象を移民に限るとする不平等で片務的な原則によって支えられてきました。言い換えますと、移民偏重の同原則が、受け入れ国側を公然と‘差別’していたと言っても過言ではありません(差別と逆差別は表裏一体・・・)。移民する側は、それが個人的な要求であっても自らの文化の受容を受け入れ国側に求めることができる一方で、受け入れ国側は、同要求を無碍には断れず、内外から強い受け入れ圧力を受けることとなるのですから。今日、移民問題が社会的分断の要因となり、公共空間において様々な問題や軋轢が生じる原因も、日本国政府を含めて各国政府も遵守している同原則に求めることができましょう。

 それでは、移民に関する不平等原則をどのように正すべきなのでしょうか。先ずもって確認すべきことは、受け入れ側の権利の具体的な内容です。受け入れ側の権利には、集団レベルと個人レベルの両者があります。集団レベルの権利とは、団体としての集団が有する権利であり、国家の場合には、その筆頭に上がるのが主権とも表現される法や政治上の権利となります(領域に関する権利も受け入れ国側の権利・・・)。すなわち、国境管理や国籍等を決める権利を含めて主権に関する権利は受け入れ国側の権利なのです。この側面からしますと、今日の国家の大多数が民主主義国家であり、主権在民を原則としていますので、参政権、すなわち、自治の権利は総体としての国民が分有していることとなりましょう。日本国では、地方自治体であれ外国人に参政権を認めていませんが、これは、仮に同権利を外国人に認めますと、いとも簡単に外国人によって受け入れ国側の統治権力が行使される道を開くこととなるからです(外国人支配、内政干渉、属国化を招くリスクの発生・・・)。

 第二に挙げる権利とは、自然発生的な集団における共通要素に関する権利です。共通要素としては、例えば、国民相互のコミュニケーションのツールとなる言語や社会的な慣習などを挙げることができます。近年、行政や企業等に対して多言語への対応を求める声もありますが、仮に、移民する側の全ての言語に対応するとなりますと、膨大な労力とコストを要することとなりましょう。国内が複数の言語空間に分裂してしまう作用に加え、話者が少数となる言語は、コミュニケーションのツールとして使うこともできなくなります。多言語対応を含め多文化対応の要求とは、現実には不可能であるにも拘わらず、受け入れ国に対して無理を強いているのです。

 第三に尊重されるべき権利は、長い年月をかけて形成されてきた固有の歴史、伝統、文化等に関する権利です。その多くは、上述した共通要素に関する権利とも重なるのですが、既得権としてこれを認めませんと、全人類が自らの来し方が不明となり、伝統や文化も失われることとなりましょう(グローバル・カルチャー一色に・・・)。何故ならば、固有の歴史、伝統、文化とは、外来文化の刺激を受けて発展するケースはあるものの、基本的には個人ではなく集団において形成される性質のものであるからです。

 以上に集団レベルにおける主たる権利について述べてきましたが、受け入れ国側の国民の基本的な自由や権利が移民する側と同等に尊重され、保護されるべきは言うまでもありません。先日、パリにあって暴動が発生しましたが、移民問題については、保護されるべき受け入れ国側の権利を明確にすると共に、その保護に関する国際的なコンセンサスを形成することこそ、急務なのではないかと思うのです。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム