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2024-06-20 21:59

占領地の帰属は住民に決定権をー和平案の行方

倉西 雅子 政治学者
 ロシアの特別軍事作戦に始まるウクライナ対ロシアとの戦争にあって、和平への道は遠いと言わざるを得ません。ウクライナのゼレンスキー大統領が九十カ国を集めて「ウクライナ平和サミット」を開催したものの、参加国の足並みは揃わず、むしろ、‘ウクライナ陣営’が一枚岩ではない状況を露呈する結果となりました。その一方で、ロシアは、プーチン大統領が北朝鮮を訪問し、友好国との間の結束を強めています。世界権力による第三次世界大戦計画、あるいは、戦争長期化計画(世界分割支配計画)を想定すれば、双方の目下の動きは、その成否は別としても、スケジュールにおいて現在は陣営分割の段階にあることを示唆しているのかもしれません。和平の糸口さえ見つからない現状は、そもそも、計画の実行者に過ぎない双方の当時国が共に和平を実現するつもりなどさらさらないことを示しているのですが、それでは、この戦争、第三次世界大戦へと向かう道の一里塚に過ぎないのでしょうか。世界権力が温めてきた計画の如何に拘わらず、同戦争を終結に導くためには、双方が否定し得ない和平案を作成することも一案です。もちろん、双方、あるいは、一方が同案を拒否する可能性はあるのですが、その案が極めて合理的であり、国際法の原則からも外れず、かつ、倫理上の問題もないのであれば、同案をもって、国際社会は、両国に受け入れを迫ることはできるはずです。

 なお、和平案とは、客観的かつ中立・公平な立場から作成されるべきものですので、今般のように、ウクライナ、ロシア、もしくはロシア陣営の一員の立場にある中国の何れであったとしても、当事者が主催する形態は望ましくありません。この側面からしますと、同案は、何れの陣営にも属さない、あるいは、政治色のない国、あるいは、国際機関が作成すべきとなりましょう。草案の作成については、国連総会が‘和平草案作成委員会’を設立し、同機関に委託するか、あるいは、国司法裁判所、国際刑事裁判所などが適任であるかもしれません。さて、和平案の作成に際して鍵となるのが、ドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソン4州の住民です。民族自決の原則に照らせば、これら4州のそれぞれの帰属については、先ずもってこれら4州の住民こそ真の当事者であり、かつ、自己決定権が認められるべきであるからです。また、仮に同4州において住民構成に地域ごとに偏りが認められる場合には、州内にあって地方自治体ごとに住民投票を実施すべきかもしれません。

 住民投票に際しての選択肢としては、(1)ウクライナ帰属、(2)ロシア帰属、(3)人口比率+居住地域を基準とした分割(国境線の引き直しもあり得る・・・)、(3)全州あるいは一部の州または地方自治体による独立国家の建設などが想定されます。この結果、双方にあってマイノリティーとなる人々の保護は言うまでもありませんが、本人が希望すれば、同族系居住地への移住を認める必要もありましょう。和平案の主たる目的は、ロシア・ウクライナ並びに上記4州による領土の確定なのですが、もう一つ、重要な合意事項があるとすれば、それは、賠償問題です(もっとも、停戦のみであれば、賠償問題は後回しでも構わないかも知れない・・・)。講和条約の原則に従うとすれば、住民投票の結果、ウクライナ領となった地域にあっては、ロシア側の攻撃によって破壊されたインフラや住民に与えた被害や損害については、ロシアに賠償責任が生じます(仮に、ロシアの凍結資産がウクライナ支援に用いられた場合、それは賠償金に組み込まれる・・・)。その一方で、正式にロシア領となった地域に対しては、ウクライナはロシアに対して賠償を要求することはできなくなります(この場合には、ロシアの凍結資産の運用から生じた資金は、ロシアに返還されなければならない・・・)。また、ロシアは、ロシア領となった地域において過去にウクライナの予算によって建設された公共インフラ等を継承する場合には、その対価を支払うこととなります。なお、戦時中に行なわれた犯罪については、必ずしも和平案に含める必要はなく、それが立証された場合には、別途、双方の責任者が共に国際刑事裁判所等に訴追されましょう。また、戦争によって生じた民間人相互の財産等の請求権については、これも別途、当時国間で協定を結ぶ必要がありましょう。また、将来のウクライナの安全保障については、ロシアはNATOへの非加盟や非核化などを要求していますが、これは、独立国家の主権的な権限ですので、むしろ、和平案には書き込むことができない内容とも言えます。

 以上に和平案について述べてきましたが、現状では、ウクライナも、ロシアも、4州の住民の権利を全く無視しています。しかしながら、国際社会の原則に照らせば、住民こそ自らの将来に対する決定権を持つべきです。仮に、ロシアが主唱するように、ウクライナが東部州のロシア系住民を迫害していたとすれば、ウクライナ政府は、国民保護という最も重要な政府の義務を放棄したのですから、住民の判断により、これらの州を失っても致し方ないこととなります。また、逆に、ウクライナ主張するように、現地住民の人々がロシアを侵略者と見なし、その頸木からの解放を望んでいるとすれば、住民投票の結果は、当然にウクライナ帰属となることでしょう。ロシアは、既に実施された住民投票により併合は承認されているとしていますが、国際的なコンセンサスの元で同問題を根本的に解決するためには、中立・公正な国際機関の監視の下で改めて住民投票を実施する必要がありましょう。そして、最終的な帰属や立場を住民の決定に委ねる同和平案こそ、最も道理に適っているように思えるのです。
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