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2025-01-21 10:54

シリアのアサド政権崩壊

舛添 要一 国際政治学者
 シリアでは、2024年11月27日以降、反政府勢力が攻勢を強めていたが、12月8日に首都ダマスカスを制圧した。アサド大統領は家族とともにモスクワに逃亡し、ロシアに亡命した。アサド政権は崩壊した。この政変はなぜ起こったのか。そして、世界にどのような影響を及ぼすのであろうか。シリアは、1946年にフランスから独立し、シリア第一共和国となった。しかし、クーデターが繰り返され、政情が不安定な状況が続いた。1970年に、バアス党内で穏健派のハフェズ・アサドが権力を掌握して大統領に就任し、その後は独裁的権力を行使した。
 
 2000年にハーフィズ・アサドが死ぬと、次男のバッシャール・アサドが後継大統領となった。彼は、一定の民主化を進めたが、2003年のイラク戦争で、同じバアス党のサダム・フセインが倒れた後は、基本的人権を弾圧し、独裁色を強めた。2010年のチュニジアのジャスミン革命を契機に、シリアでも40年にわたるアサド家の独裁に対する国民の不満が爆発し、2011年春に抗議運動が起こった。これに対して、アサド政権側は、ロシアやイランの支援を受けて対抗し、内戦となったのである。これにスンニ派の過激派テロ組織であるイスラム国(IS)も介入したため、内戦が泥沼化していった。そのため、大量の難民が発生し、国外に避難した人は660万人、国内で避難生活を送る人は670万人と、第二次大戦後、最悪の難民となった。
 
 2015年9月30日、ロシアはアサド政権を支援するために、ISに対して空爆を行った。ロシアの介入の大義名分は、国際テロ集団ISを壊滅させるためだということである。トランプ政権がシリアから実質的に手を引き、ロシアはアサド政権を継続させることに成功した。その結果、中東におけるロシアのプレゼンスが高まった。アサド大統領は当事者能力を欠く凡庸な指導者であるが、これまでの経過から、シリアの現状を見れば、ロシアのみならず、欧米諸国も協力してアサド政権を支えていくしか他に手がないというのがこれまでの考え方であった。ところが、その後、1年半経ったところで、アサド政権崩壊という大どんでん返しが起こってしまった。
 
 その背景にあるのは、アサド政権の後ろ盾であるロシアが、ウクライナ戦争に集中せざるをえない状況にあり、アサドへの支援が減ったことがある。また、レバノンに拠点を持つイスラム教シーア派組織のヒズボラが、イスラエルとの戦争で弱体化し、停戦の余儀なきに至ったこともある。その停戦が発効した11月27日に反政府勢力は大攻勢を始めたのである。イスラム過激派組織「シャーム解放機構(ハヤト・タハリール・シャム、HTS)」が主導する勢力が、わずか12日で、父子が50年以上にわたって続けてきた独裁体制が崩壊させたのである。しかし、平和裏に政権以降ができるかどうかは不透明である。シリアで安定した政権が容易に成立すると考えるのは楽観的すぎるであろう。今後の展開を注視したい。
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