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2025-02-11 09:23

関税壁の復活は内需復活へのチャンスでは?

倉西 雅子 政治学者
 国内政治にありましては、弱い立場の人々を扶けることは、政府の役割の一つとしされています。このため、所得や収入が低いといった恵まれない立場にある人や世帯に対しては、税を軽減したり、特別に支援金や手当を支給すると言った措置がとられています。所得レベルに比例して税率を上げてゆく累進課税も、弱者に配慮した制度と言えましょう。経済政策の分野でも、大企業と中小企業とは区別されており、一律に同一条件で法を適用するのではなく、後者に対しては条件を緩和するといった措置がとられることも珍しくはありません。こうした政策の根底には、全てのメンバーの生活を維持し、豊かさをもたらすという、公権力の存在意義があるからなのでしょう。

 それでは、今日の自由貿易主義やグローバリズムはどうでしょうか。今日に至るまで、これらの自由主義思想の基礎的な理論は、リカードが唱えた比較優位説に求められてきました。ところが、この説に従えば、競争力において劣位する‘弱者’は、当然に淘汰されることになります。否、完全に淘汰しなければ、最適で理想的な国際レベルでの分業も資源の効率的配分も成立しないのですから、劣位産業を潰すことは当然に通過すべき‘プロセス’となるのです。そして、このリカードの視点において注目すべきことは、貿易を行なう双方国における淘汰を肯定的に認め、特定の国家の立場や利益に立脚しているわけではない点です。あるいは、客観性や中立性を装いながら、その実、当時自由貿易主義で最も利益を得たイギリス、もしくは、同国に内在化したユダヤ勢力に貿易利益がもたらされる体制を理論武装しようとしたとも言えましょう。何れにしましても、国家を主体とした二国間の貿易を論じているように見せながら(従来の一般的な見解)、リカードは、上部あるいは外部から国際経済を捉えようとしていたことになりましょう。

 さて、自由貿易主義やグローバリズムの方法論はいたってシンプルであり、それは、国境を越えてあらゆる要素を自由に移動させることにあります。障壁となる国境が消滅すれば、広域的な競争が始まり、自動的に規模や技術に劣る側が中小国の産業やより規模の小さな企業が淘汰されてしまうからです。現実には、人口、国土の面積、地理的条件、気候、国家機構、技術レベル、教育レベルなど、様々な面において国家間には格差がありますので、この状態で自由競争を強いますと、柵を外して羊さんとオオカミを同じフィールドで闘わせるようなもので、‘弱肉強食’となるのです。保護壁として国境が消滅すれば、より規模が大きくよりテクノロジーにおいて先進的な諸国のみが勝ち残るのは目に見えているのです。もちろん、敗者に対するフォローはありません。上述したように、国内政治では、規律ある自由主義経済を基調としつつも、それでも経済的に弱い立場の人々が生じた場合には、上述したように公的な支援を行なうものなのですが、グローバリズムにはそれもないのです(あるいは、淘汰された側の国に弱者救済の責任や負担を押しつける・・・)。

 リカード並びにその後継者たるグローバリスト達に淘汰に対する罪悪感が全くないのも、国家の利益やその国の国民生活は、全く視野に入っていないからなのでしょう。そして、今日、グローバリストや新自由主義者達が日米をはじめ多くの諸国から批判に晒されているのも、その冷酷なまでの淘汰容認にありましょう。淘汰とは、社会一般ではこの世からの追放を意味しますので、道徳観や倫理観を持ち合わせていないサイコバスにしか見えないのです。‘世界レベルで最適の分業体制が成立するのだから、何が悪い’ということなのでしょう(しかも、同体制においては利益の殆どは永続的にブローバリストに集中する・・・)。アメリカではドナルド・トランプ大統領が関税を復活させ、アメリカ産業を護る方針を打ち出しています。日本国内では、メディアを中心に自由貿易主義に反するとして反対の声で溢れていますが、むしろ、関税の復活とは、経済面においても、政府が保護的な役割を取り戻すことによる‘正常化’を意味するように思えます。日本国政府も国民も、‘関税壁のある時代’の到来を危機とは見なさず、農業を含めた自国産業の復活に努め、新たなる内需型経済を構築するチャンスとすべきではないかと思うのです。
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