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2008-01-31 10:10

(連載)第2回「日米アジア対話」に出席して考えたこと(2)

池尾愛子  早稲田大学教授
 一方、中国の研究者が来日して講演したり研究発表をしたりする機会が増えているが、エネルギー・環境問題を除いては、彼らが他の人たちの講演や発表を聴いてコメントすることは極めて少ないように思われる。実際のところ、中国のエネルギー経済研究所と日本のエネルギー経済研究所との間では、すでに長年にわたって共同研究が進められていることからわかるように、日中間で、エネルギー分野、そして環境分野では専門的議論が可能になっている。また、2007年9月の北京での「第2回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」により、省エネルギーや環境対策に向けての日中協力が大きく進展しつつある。1月22日の対話でも民間経済部門の相互依存関係が深まっていることがフロアから指摘された。そして、2004年6-7月時点でも、中国広東省の大手企業経営幹部(30名強)の研修の第1回が東京中心に行われており、第2回が昨年2007年11-12月にかけて好評のうちに実施されたことも付け加えてよいであろう。

 国境を越える経済活動が現在のグローバル化を推進していることには、1月22日の日米アジア対話でも共通認識があった(!)。したがって、国際政治や国際関係を論ずる際にも、通貨・金融、貿易・投資、越境企業の活動といった経済問題を視野に入れる必要があるはずである。そのため、1月22日の対話では経済学者が1人パネルに入ったと思われるが、経済学者が議論に入り込める余地はほとんどなかったと思う。セッションIでは、企業統治(コーポレート・ガヴァナンス)の問題がちらと議論になったのであるが、西洋思想の伝統をよく知ると思われるパネリストからは、経済協力開発機構(OECD)の基準はおろか、西洋思想史において劇的な分岐点となるデカルトの演繹論理を一見拒否する発言も出された。ただ彼の発言全体から判断するに、これは一種のレトリックであり、アジアに直接投資をしている企業が留意すべき諸点も示唆されていると思われる。西洋やその周辺の思想の流れをみれば、取引などをつうじて経済的利益が上がるところでは、正義や公平性が尊重される伝統が存在する。中国企業の問題と指摘されているものの中には、中国やアジアに直接投資をしている越境企業の一部にも及ぶ諸問題が存在し、そうした越境企業の行動が鍵を握ると考えられているかもしれない。

 最後に、楊氏が提示した朝貢貿易にもとづく中華主義の歴史観は、日本では19世紀以前の歴史観として採用されてこなかった。こうした歴史観(の相違)、伝統や文化については、それらをテーマとする日中の大学の研究者による国際会議も開催されているようなので、様子を見たいと思う。中国現代国際関係研究所の下には、地域・国ごとの研究所が設置され、政治や安全保障がもっぱら研究テーマにされていることが、議論の進まない原因ではないか。中国の人たちがイギリス人やヨーロッパ人に向かっては「帝国主義者!」と批判することがあると聞いている。今回の対話を聴いていて、アメリカ人に対してはどのような批判あるいは挑発的発言をしているのかが気になった。地域ごとの縦割り対応だけでなく、グローバルな視点からの通貨や経済制度間の調整の問題を研究し、国際会議において議論することも必要なのではないか。国際通貨の歴史に対する理解にも相違があるので、その議論から始めてもかまわないのである。(おわり)
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