国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-01-31 12:47

(連載)エネルギー供給国としてのロシアの信頼性(1)

須藤繁  シンクタンク研究員
 エネルギー安全保障は、プレーヤー毎に異なる意味合いを有する。エネルギー消費国にとっては安定供給(供給の安定性)を意味し、エネルギー生産国にとっては予測可能な需要(需要の安定性)を意味することはよく指摘される。他方、エネルギーはこれまでしばしば政治的な道具として意図的に利用された。1973年の石油危機を惹起したアラブ石油輸出国機構(OAPEC)の禁輸措置はその好例であり、最近では米国の攻撃の示唆に対し、石油供給を停止するという脅しをかけるイランの対応もその一例である。その点からエネルギー安全保障の問題は、軍事安全保障の問題にもなり得、また特定の生産国に対する過剰な依存関係は、安定供給を確保するため当該国との良好な関係を維持する必要から、互恵的関係に発展する可能性も内包している。

 最近の欧州連合の主要懸念事項のひとつは、ロシアへの依存度が今後一層高まることが確実視されていることである。EUは、将来のエネルギー供給上のリスクを回避するため、エネルギー供給源の多角化を志向して来た。その一つの方途としてロシアを、不安定性を内在する中東地域に対する代替供給国と位置付けて来た。しかしながら、欧州にとって多様化に向けた選択肢は限られている。カスピ海周辺を含め中央アジアを有望視する向きもあるが、同地域と欧州を結ぶ輸送網は十分に整備されている訳ではない。

 最近EU関係者と議論する機会を得たが、総じて、(1)ロシアは世界の他の大国との権益上の衝突もあり得る地域に権益を持つユーラシアの大国であると自己規定している、(2)ロシアが大国としての役割を担う上で主要な資源のひとつがエネルギーである、(3)プーチン政権にはロシアのエネルギー資源、及び所有パイプラインを外交政策上の道具として利用する考えがある、(4)ロシアは複雑な官僚手続き、環境影響評価などの行政措置を利用して、外国の企業がロシアのエネルギー事業に参入してくるのを妨げている、(5)エネルギー価格の高騰はロシアの経済的衰退傾向を逆転させ、独自の姿勢をとることを可能にしている、との指摘がみられた。中には、「エネルギー資源を外交の梃子にするという考えを単に原油価格の上昇という外的要因に帰着させるのは誤りである。そうした考えはロシアの指導者の考え方の中に従前より内在されていた」とコメントする者もみられた。欧州にとって悪夢ともいうべき主要リスクは、ロシアが短期的な目標を達成するために、人権問題・民主化問題などにより惹き起こされる可能性がある欧州との政治危機の際に、同国がエネルギー・カードを切ろうとする誘惑に駆られることであるというのである。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム