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2008-02-04 10:32

(連載)現状維持選択した台湾有権者(3)

岡田充  共同通信編集委員
 一方、胡錦濤政権も台湾政策の重心を「平和統一」から「独立阻止」「現状維持」に移す政策調整をした。2005年の全人代で採択された「反国家分裂法」と「胡4点」(同年3月)の要点は、(1)「台湾人民に希望を託す」など台湾の民意重視を初提起、(2)統一の時間表は設けない、(3)「一国二制度」の表現は使わない、などだが、これと「台湾へ直接圧力はかけない」方針がセットになった。台湾問題は中国の内政という原則に変化はないが、台湾への直接圧力は可能な限り控え、欧米など西側主要国を通じて批判する戦術だ。「台湾問題の国際化」容認でもある。

 「現状維持」と「国際化」への転換は、台湾への「文攻武嚇」が1996年の総統直接選以来、逆効果しかもたらさなかった「学習効果」であろう。同時に、(1)中国の大国化と米中協調路線への自信、(2)主権と領土を中心とする旧態依然とした「一つの中国」論の実体的腐食という背景も挙げたい。

 中国の現状維持路線への転換は、陳政権の「独立」への動きを「一方的な現状変更」として、国際世論の力で封じ込める基礎を作った。反国家分裂法の直後、胡錦濤が連戦、宋楚瑜を招待し、「野党外交」を展開できたのもその効果である。「台湾人意識」の強まりは、「台湾独立」支持と同義ではない。台湾住民の85%が「現状維持」を支持しているのは、独立と統一に対する米中のけん制・圧力が、有権者に現実的な判断を迫っているからである。陳政権が進める「台湾名での国連加盟の是非」を問う住民投票が、中国のみならず米国、欧州、日本など主要国から「現状変更にあたる」と反発を受ければ、有権者の投票行動にも影響を与えずにはおかない。国民党圧勝は、現状維持路線に転換した「国共合作」の勝利でもあった。

 立法院選挙と同時に行われた2つの住民投票は、投票率が26%台で成立しなかった。有権者は1727万人で、過半数の863万が投票しないと成立しない。総統選と同時に行われる「台湾名での国連加盟の是非」を問う住民投票も、成立の展望はほとんどない。米中両国とも選挙・住民投票結果への論評は避けているが、胸をなで下ろしているに違いない。住民投票で注目されるのは、福田首相が昨年暮の訪中で表明した「不支持」の効果である。「反対」ではなく「現状変更にあたるとすれば」など、台湾側に配慮したふしはあるが、「反対」であれ「不支持」であれ、台湾有権者が日本の態度表明をどう受け止めたかであろう。台北駐日代表処のトップは、年初に「福田発言の影響を注視している」と関係者に懸念を口にした。一方、中国大使館高官は「態度表明は一歩前進」と評価している。4年前の住民投票の際は、交流協会台北事務所長が総統府に懸念表明したが、今回は首相自ら裏書きしたことになる。日米欧が揃って陳政権の独立傾向に包囲網を形成したという意味で、中国にとって福田訪中の最大成果かもしれない。

 4月の胡錦濤訪日の際、中国側は「第4の公式文書」調印を目指し、日本に「台湾独立反対」を盛り込むよう求める構えだ。しかし日本外務省当局者によると、日本側は日中首脳会談では(1)東シナ海ガス田共同開発での合意、(2)主要国首脳会議の目玉になる地球温暖化防止に向けた中国の協力など、2国・多国間協力という「全体のバスケット」の中で台湾問題を処理する意向だ。日本側は「独立反対」には踏み込まず、「現状変更は支持しない」という福田発言の踏襲と「台湾海峡をめぐる問題の平和的解決」(2005年の日米安保協議会「2プラス2」の戦略目標)を盛り込む考えとされる。カードはすべて切る必要はない。(つづく)
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