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2008-03-13 13:43

ある日のゆうちょ銀行でのこと

福嶋 輝彦  桜美林大学
 ここ数日間の間に同じ用件で郵便局に3回も脚を運ぶことになった。筆者が顧問を務める大学運動部のゆうちょ銀行口座の通帳再発行手続きのためである。3月1日から犯罪収益移転防止法が施行されたそうで、従来の本人確認法では問題なく受理されてきた部の規約に加えて、いろいろ追記が必要なのだと言う。一旦戻って確認のうえ、後日改めて書類を揃えて同じ窓口に提出したら、数日後電話がかかってきた。ゆうちょ銀行の管理センターでのチェックで、団体設立年月日欄に誤記が発見されたので、訂正印が必要とのことであった。窓口職員は自分のミスと低姿勢ではあったが、この一件はゆうちょ銀行をめぐる2つの問題点を提起している。

 第1に、部やクラブのような任意団体に対して、法人と同じ感覚で規約などの提出を求めることが、果たして犯罪防止を目的とした本人確認につながるのであろうか。こうした任意団体は正規の規約を持たない、たとえあっても、ゆうちょ銀行が本人確認で求める団体所在地住所や団体の設立年月日などが規約に記されていないことが多い。こうした杓子定規でなくとも、その任意団体の正規の活動を証明できるような文書の提示をもって、本人確認に代えれば済むのではないか。実際部員に尋ねたところ、部のもう一つの銀行口座の場合、本人確認は部員の学生証の提示、部の活動を記す大学公認団体名簿といった文書のコピーの提出で事足りたとのことである。そこで提出文書に疑いが生じたのであれば、今回のようにセンターでチェックして再確認すればよい。免許証を見たところで、筆者が大学の教員で、部の顧問の資格を持つことの証明にはならない。連盟所属チームの公式名簿の我が部の欄の写しを保管しておく方が、よほど確実な本人確認になる。だいたい、今回誤記があったとして改めて書かされた団体設立年月日にしても、口座開設に必要だからと作成した規約の施行日にすぎない。もし良からぬ人間がこうした杓子定規の応対を知っていたら、ワープロで書類を揃えておけば、簡単に架空の任意団体のゆうちょ口座が開けてしまう。

 第2に、ゆうちょ銀行の振替口座は、ボランティア団体のようなNGOにとっては非常に便利な存在である。小さな学会の事務局長をやっていたときにも、振り込み手数料が安い郵便振替口座は、会費徴収の際の心強い味方でもあった。振替用紙を送っておけば、忙しい会員などは家族に支払いを頼みやすいし、通信欄は事務手続きの円滑化にも役立つ。任意団体にとってゆうちょが重宝なのは、利率よりもこうした利便性にある。筆者が加入している比較的大規模な開発NGOも、口座はゆうちょである。しかし、民営化で利潤を追求していかねばならないゆうちょ銀行にとっては、こうした利便性はむしろ経営上の重荷でしかなく、今後次々と廃止されていくのかもしれない。我が部のような任意団体など、本人確認で柔軟な対応に応じてやるほど、良い顧客ではないのかもしれない。そもそも、警察庁の犯罪収益移転防止法の解説でも、本人確認の手続きについて説明があるのは、個人と法人についてだけで、任意団体については何も書かれていない。銀行口座を持つことさえもお上から想定外にされては、日本のNGOの財政基盤が弱いのも無理からぬことなのかもしらない。
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