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2008-03-21 10:02

餃子事件と中国内政

田島高志  東洋英和女学院大学大学院客員教授
 中国から輸入した餃子をめぐる事件の真相解明は、今は頓挫の情況に見えるが、これは日中共同調査作業を通じて何れ解明さるべき問題である。さもなければ、中国の輸入食品に関する信頼は取り戻せないであろう。しかし、ここで注目されたのは、中国側の対応の不統一さであった。中国の指導体制は、決して一枚岩ではなく、大きく分けると、胡錦濤総書記を筆頭とする「団派」(共産主義青年団出身者)、前総書記江沢民が率いる「上海グループ」、中国革命の元老達を親に持つ「太子党」の三つの派閥が主導権争いを続けていると言われる。

 胡錦濤は、就任以来「対日新思考」と言われる対日協調外交を目指しており、安倍前総理、福田現総理就任により靖国問題が障害から消えて以降、その方針を強化しつつある。しかし「上海グループ」を中心とする対日強硬派は、依然対日警戒心を解いておらず、今回の全国人民代表大会で新たに国家副主席に就任した習近平党政治局常務委員を含む「太子党」も、次の指導権を狙う勢力であり、胡錦濤としては油断ならないグループである。さらに、中国の軍もナショナリズムと対外強硬論を保持している勢力として無視できない。
 
 餃子事件に対する中国側の態度は、訪日調査団の帰国前には「中日どちらに原因があるかは、未だ直ちに結論は出せない」という押さえた態度であったが、その後間もなく「中国側に原因がある可能性は極めて低い」という日本側見解と真っ向から対立する態度を表明し、日本の警察当局を怒らせた。ところが、最近中国側は、楊潔篪外相が「この問題は、日中双方が共同調査で原因を究明する必要がある」という趣旨の発言を行い、再び振り出しに戻った感を与えた。このように中国側の態度は一貫していないことが看取される。それは上述のような中国内政上の複雑な背景があり、オリンピックを控えて対日外交をめぐる強硬派と協調派との確執が残っているためである。中国側としては、国内諸方面の圧力を受けて一貫した態度に欠けることとなり、取りあえずあいまいな態度の表明で繋いでいる、ということだと推測される。
 
 日本側から見れば、この問題は白黒の決着をつけること自体が目的ではない。より根本的に、中国側に輸出食品の安全確保のため十二分な改善策を採ることの重要性を理解させることが目的である。同様の事件の再発防止策を中国側に採らせること、それが日中双方の国民にとっての利益であること、を中国側に納得させ、行動させることが目的である。そのためには、双方の面子や政治問題としてではなく、中国側に科学的な根拠を繰り返し冷静に説明し、その認識と理解を確保することが重要であると思われる。
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