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2008-04-18 14:31

開発援助と人的ネットワーク

西川 恵  ジャーナリスト
 最近、かつてゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)と呼ばれた麻薬地帯のタイ北部チェンライ県に行ってきた。麻薬を撲滅し、地域興しを成功させたドイトン計画を見るためだが、そこで開発援助の新しいあり方について考えさせられた。

 このドイトン計画成功の立役者は、メーファルアン財団理事長のクン・チャイ氏である。同財団はプミポン国王の王母が1967年に農村開発のために設立したもので、1988年からチェンライ県で麻薬撲滅を柱とした地域開発をスタートさせた。王母の秘書で、王族の血を引くクン・チャイ氏は、自ら山に分け入り、少数民族の村々を訪れ、いかに農業が麻薬栽培よりいいか説明した。「彼らの信用を得ないかぎり成功しない。彼らの話にじっくり耳を傾け、納得するまで話し合った」と語る。こうして焼畑で荒れた山々に、ナッツやコーヒー、お茶の木が植林され、コーヒー、織物、陶磁器などの産業が興り、少数民族の就職先になった。いまでは年間100万人が訪れる観光地だ。

 同氏は「ドイトン計画を世界に」を掲げ、同計画をモデルとした開発支援をミャンマー、アフガニスタン、インドネシア(アチェ)でも進めているが、その行動力と豊かな発想、人間味あふれる人柄に、世界からさまざまな人が集い、面白いネットワークが生まれている。NGOの日本国際親善厚生財団(JIFF、本部・茨城県結城市)の多田正毅理事長もその1人だ。JIFFは1980年代からカンボジア、エチオピア、アフガニスタンで医療活動を行ってきたが、多田理事長はクン・チャイ氏と出会って意気投合。同氏の依頼でチェンライ県の病院を拠点にして、タイとラオスの看護士の研修や、医療機器の提供などの医療支援を行っている。近く同氏と組み、ベトナム、ミャンマーでも医療活動をする。

 「男が男に惚れたというヤツです」と理事長は言う。国際協力機構(JICA)も、アフガニスタン、ミャンマーで同氏との協力を検討している。同氏と交流のあるJICAバンコク事務所の小野田勝次所長は、「クン・チャイ氏を核に人が集い、面白いアイデアが生まれます。開発援助は制度でなく、人だと思います」と語る。アフリカのように、きちんとした制度があってこそ開発援助もしっかりとしたものになる地域もある。しかしタイのように、途上国から中進国となった国は、制度よりも、それまで育て築いた人脈との協力関係が、創造力ある開発支援を生み出すカギになる。東南アジアで被援助国を卒業する国が増えているが、日本はタイのような国と組んだ第三国支援など、新しい開発援助のあり方を考える時期にあるように思われる。
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