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2008-06-16 22:19

(連載)2008年の世界を考える三つの視角(1)

山内昌之  東京大学教授
 5月のTICAD4(第4回アフリカ開発会議)もまず無事に終了した。今年の日本外交は、7月の洞爺湖サミット、8月の北京五輪などを軸に進んでいくだろう。折から5月には中国の胡錦濤主席の訪日を迎えたが、これらの三つの行事がいずれも中国と深く関係するのは興味深い。そして、胡主席の訪問は、チベット民族問題など中国の人権と民主化のあり方が国際世論で厳しく問われ、聖火リレーにも障害が出た時期と符合していた。首脳会談は、有毒物資のギョーザ混入や東シナ海の天然ガス田開発といった日本との懸案を解決できなかったにせよ、日中歴史共同研究の順調な進展とあいまって、歴史認識の問題をめぐる従来の対決ムードが回避されたことは、悪いことではない。7月には歴史共同研究報告書も出される運びである。また、日韓歴史共同研究もまずまず順調に進んでいる。
 
 いずれにせよ、この三つの大きな外交日程から見えてくる2008年の世界と日本の選択は、いかなるものになるのだろうか。たしかに、衆参両院のねじれ現象や年金・医療保険問題など内政が山積している現在、外交や対外関係を中長期的に考える作業はなかなかむずかしくなっている。だからこそ、やや長い歴史のスパンで問題を見通しながら、2008年の世界と日本の進路を考える必要も出てくる。

 ところで、5月の日中共同文書で福田首相は中国との「戦略的互恵関係」をますます増進することに同意していた。しかし、こうした戦略的な二国間関係が日本外交の柱である日米安保条約ひいては日米同盟との関係でいかにとらえられるべきかについては、まだ十二分な議論がおこなわれていない。また、昨年の安倍前首相の中東訪問にあたっては、エジプトやサウジアラビアとの未来の対話でも「戦略性」をもつ可能性が示唆されていた。 

 そこで第一の問題は、「戦略的互恵関係」や「戦略的パートナーシップ」とは何か、日本外交の「戦略性」を考えることである。このところ日本外交ではしきりに、「戦略的互恵関係」や「戦略的パートナーシップ」という言葉が飛び交うようになってきた。これは、日本外交における二国間関係と多国間関係のあり方について、日米、日中の関係をまきこみながら議論する意欲にもつながる。「戦略性」の強調をグローバルもしくは広域的な利害関心の共有だと考えるなら、果たして「戦略的互恵関係」なる外交理念は、関係国の世論をまきこむ新しい外交スタイルになるのであろうか。それとも、単なるレトリックに近いのだろうか。あるいは、どちらかといえば格下の国に乞われて「戦略」という表現を形容詞的に使うのであろうか。このあたりは今後十分に議論する必要がある。(つづく)
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